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第5話 核心

〈一〉 ある日のシアタールーム。 バンドの深夜練習空けで寝不足のショウさんは、映画の序盤から既に眠そうだった。 「ユウ、ごめん。俺ちょっと寝ていい?」 「あっ、はい。出ますか?」 「ううん、このままでいい。肩貸して」 ショウさんが椅子を横に寄せてきたかと思うと、肩にすとんと重心がかかる。 少し猫っ毛の、深い茶色の髪が頬をくすぐり、微かなシャンプーの香りに誘われて、自分の中の邪な気持ちが顔を出す。 少ししてから目線だけを斜め下に動かし、ショウさんが眠りに落ちたのを確認する。 そうして、そろりと頭を重ね、ショウさんの温もりをひっそりと盗んだ。 あの日以来、ショウさんのことを意識しすぎて、完全に挙動不審になっている。 自意識過剰なのかもしれないが、心なしかショウさんからのスキンシップも増えた気がする。     いくら恋愛に疎い自分でも、今の気持ちが好きな人に対して抱く感情と似ていることくらい分かっている。 かと言って、ショウさんの距離の詰め方が、自分と同じ部類の感情から来るものなのかというと、自信はない。 しかもショウさんは男で、自分だって今まで同性を恋愛対象として見たことがなかったので、やはりどこかでこの気持ちを「恋」とカテゴライズするのに踏み切れない自分がいるのも事実だ。 (そもそも、女の人にだって恋愛感情を持ったことがあったかどうか……) 高校二年の夏、同じクラスの女子に告白されて付き合ったことがある。 理由は単純。 あの時期、周りが一斉に付き合いだして、多少なりとも焦りを感じたし、せっかく勇気を出して告白してくれたのに、よく分からずに断るのも悪いと思ったからだ。 そんな関係が続くわけもなく、彼女主導の下、何度か手をつないで下校し、無理矢理に軽いキスを要求された程度で、最終的に『なんか違った』の一言で、あっけなく終わってしまった。 それ以降、自分から好きになった人はいないし、数少ない告白も、相手に何も感じなければ、きちんと断るようになった。   ショウさんは、はじめはカッコいいお兄さんで、今も憧れの先輩的存在だという根底は変わりない気がする。 最近は大学でも一緒にいる機会が増えて、色んな一面を見るたびに、人間的にとても魅力のある人だということも分かってきた。 何より、ショウさんと出会ってからは、初めての経験をすることがたくさんあるから、その刺激を恋愛のときめきと混同しているところもあるかもしれない。 (ていうか、あんなカッコいい人に抱きつかれたりしたら、たとえ男だってドキドキするんじゃないか?) だけどもし、ショウさんが一人の後輩として心を開いてくれているだけで、それなのに俺が下心を持っていると知られたら……。 せっかく仲良くなれたのに気持ち悪いと思われて、最悪『もう二度と話し掛けるな』とか言われるんじゃ!? (それは嫌だ!) 一旦、考えるのを保留にした。 幸いと言っていいのか、ショウさんはライブの準備で忙しくなり、しばらく会う機会がなかった。 そうして有耶無耶にしたまま迎えた、十一月下旬のライブ。 その日は勇磨さんのバンドも出演することもあり、楽しみと緊張と、複雑な思いが同居していた。 『SPLASH メジャーデビュー決定! デビュー直前、ホームでの最終ライブ!!』 ライブの告知ページには、勇磨さんのバンドが年末にメジャーデビューすることが決まり、本格的な活動に移行する前の、最後のホーム会場でのライブと書いてあった。 人気バンドの共演ということもあり、フロアは超満員だった。 「なんかこのメンツ久しぶりじゃね?」 「そうだよね!三人揃うと、高校の頃思い出すね」 しばらくぶりの再会に一時は心躍りつつも、すぐに心はショウさんで一杯になっていた。 (どうしよう、なんかすごく緊張する。ショウさんに会ったら何を話そう) 「ユウ? 何か考え事?」 「えっ、何? ごめん、何でもないよ。それよりさ……」 ジュンに心の中を見透かされたようで、焦った時だった。 「優!」 突然名前を呼ばれて声の方を見やると、キャップに薄灰色のサングラス、マスク姿の人がひらひらと手を振りながら満員のフロアを横切って来る。 顔のほとんどが隠れているのに、何故だかそのマスクの下は、朗らかで懐っこい笑顔であるに違いないと思える。 すれ違いざまにその正体に気付いたファンが明らかにどよめいてるが、当の本人は少しも気にしていないようだ。 「勇磨さん!」 「来てくれたんだね!九月のライブ以来かな、元気にしてた?」 「はい。あの、おめでとうございます。あ……の、なんか、ファンの方の反応が凄いですけど、ここにいて大丈夫なんですか?」 「ははは、大丈夫大丈夫。本当はあんまり言っちゃいけないんだけど、今日は最初がバタバグだから、見ておきたくて出てきちゃった」 口元に人差し指を当てながら小首を傾げる姿が様になるのだから、やはり勇磨さんだ。 感心するのと同時に、またしても二人の関係を意識せざるを得なくて、口元が歪む。 「あ、あぁ、やっぱりショウさんの……」 明らかにトーンダウンした声が出てしまった。 「あっ、あの。ショウさんと勇磨さんは、本当に仲がいいと思って」 無理矢理言い直した。 「えっ?……ほうほう」 意味深に頷く勇磨さんに、何か悟られた様な気がして、急に恥ずかしくなり、目を逸らした。 「そうだね、まぁ俺達はバンド外でも色々あったからさ」 サングラスの下からうっすら覗く目が、まるで品定めしているように見えて、いたたまれない。 (色々あったって……? 二人は付き合ってたとかじゃないよな?) 自分がそういう気持ちだからって、何でも同じように考えるのは良くないと思ったけれど、少し含んだ言い方をされたのが引っ掛かった。 その先を聞きたいような、聞きたくないような気がして言葉を返せずにいると、突然客席が暗転した。 ステージがぼんやりと照らされ、BUTTER BUGSのメンバーが演奏の準備に取り掛かると、周囲から密かに色めき立つ空気が流れてきた。 「おっ、来た来た。ショウは相変わらずカッコいいねぇ」 こんな言葉も、少し前ならほほえましいとさえ思えたかもしれないのに、今は、二人が特別な関係でないことを願うしかなかった。 せっかくショウさんのライブが見れる貴重な時間なのに、心がどす黒い色に染まっていくのを抑えることができなかった。 BUTTER BUGSがトップバッターを切ると、会場の熱は一気に最高点までヒートアップした。 ショウさんの圧倒的な存在感と歌唱力。 それを肉付けるように、タクヤさんのギターソロが光る。 タクヤさんの、全身から『楽しい』が溢れるプレイスタイルは、見ていると心が浄化されていく。それに、ドラムのシンさんと、ベースのスミさんのリズム隊は、長年の関係がものをいうというか、お互いの音と肌感覚で会話しているみたいに、絶妙に息が合ったフュージョンを繰り出して、バンドの世界観を確固たるものにするための土台を築いている。 はじめの最高潮を、二曲目、三曲目になっても更新し続け、ますます勢いを増していく彼らの姿に感化され、気付けばただただ純粋にライブを楽しんでいた。 「SPLASH、デビューおめでとう」 最後の曲紹介の際、ショウさんは勇磨さん達の門出を祝った。 「SPLASHとは、結成時期とか年齢が近いのもあって、十代の頃からすごく刺激を貰ってきました。ここでのライブも、まだお客さんが数えるほどしかいない時から、なんとか盛り上げようって一緒に切磋琢磨してきたし、俺は勝手にみんなのこと戦友だと思ってます。今、こうして皆の才能が認められて、これからもっともっと多くの人達にSPLASHの音楽が広まっていくと思うと、自分のことみたいに嬉しいです。けど、俺たちも全然負けてないと思ってる。きっとすぐ追い付いて、そんでまた同じ舞台に立てるよう頑張るから、覚悟して待ってろよな」 ショウさんは少し照れたような表情をして、上を向いた。 一呼吸おいてから、正面を向いて視点を見定めた。 (あっ、こっち見てる……?) 「こんなクサい台詞言うつもりはなかったけど、今日は許してください。最後の曲は、自分への覚悟として、それから親愛なる友に向けて贈ります」 ギターの開放弦の和音からはじまり、疾走感のあるドラムが心を搔き立てる。 そして、強く胸に突き刺さるようなショウさんの歌声。 あの空に向かって 今、手が届きそうなんだ 僕は僕のまま 君は君の色で 広げたこの手に 始まっていく symphony 目が合ったと思ったのは、気のせいだった。 あの視線は、自分の隣にいる勇磨さんに向けられていた。 「なんだよ、最高かよ……」 空耳かと思うほど微かな声がした。 勇磨さんはステージに向かってただ真っ直ぐ立っている。 覗き見た横顔が、少し泣いているように見えた。 見つめ合う二人をすぐ傍で見ている、部外者の自分。 どんなに熱く視線を送っても、たくさんの視線を飛び越えて、今、ショウさんの瞳を独り占めしているのは、間違いなく勇磨さんだった。 勇磨さんは、最後の曲が終わると「またね」と小さく言って去って行った。 フロアが再び暗転した時、心まで真っ黒な闇に包まれた。 〈二〉 「いつもお前ばっかり勇磨さんと喋れてずるいだろ!俺も話したいから残ろうぜ!!」 先程の出来事で完全に意気消沈して、イベント終了後、早々にジュンと帰ろうと思ったのだが、強引な佐々木に引っ張られ、今回もまた打ち上げに参加することになった。 (二人が仲良くしてるところ、今、本当に見たくないな) 仕方がないので、ずっと佐々木についてまわっていた。 「おっ、なんだぁユウ。今日は積極的じゃん。よしっ、それなら特別に俺のギター談義を聞かせてあげよう!」 頭をぐしゃぐしゃに撫でられたが、タクヤさんは訝しむことなく会話に入れてくれた。 時折ショウさんの視線を感じたような気がしたが、気付かないふりをして、佐々木とタクヤさんの話に無理やり首を突っ込んでいた。 そんな感じでなんとかやり過ごしていたのに、気付けば勇磨さんがどこからかやって来て、笑顔のまま正面に座った。 訳ありげな目線でジッと見つめられている。 自分に後ろめたい気持ちがあるからなのか、今日はそんなことばかりだ。 「お疲れ様です、勇磨さん!!今日のライブ、キレッキレでした!」 横に座っていた佐々木が、興奮気味に身を乗り出したので、勇磨さんの視線から逃れられて少しホッとする。 「ありがとう!今日はほんと楽しかったなぁ」 もはやメガネマスク姿ではなくなったので、勇磨さんの顔に、正真正銘の満面の笑みが浮かぶ。 「勇磨、お疲れお疲れ!めちゃくちゃグルーブしてて良かったよ。でもな、今日は珍しくユウが俺のギター談義に興味持ってくれてるんだよ。今いいところだから、とりあえずお前も聞いていくといい」 「何それ!面白いことやってるねー。それでは拝聴させて頂きます」 そのまま勇磨さんも混ざって、ギター討論会が始まってしまった。 しばらくしてタクヤさんの話が一区切りつくと、勇磨さんがニカッと笑って挙手をした。 「じゃあ俺も聞かせちゃおうかな、勇磨先生秘伝のギター演奏技術向上論!」 「おおっ!聞きたいです!!」 佐々木が、更に前のめりに反応する。 「いいね、望君! では早速ですが、ギターと女の子の扱いは似てるって、聞いたことない?」 「おい、なんか急におっさんぽい話になってるけど大丈夫か?」 タクヤさんは眉をひそめた。 「えぇ、そうかな? 俺は案外その考えは的外れじゃないと思ってるけど」 「なるほど。どういうところがですか?」 「よく聞いてくれました、望君!」 佐々木はまんまと乗せられて、そのまま舞台は勇磨さんの独壇場になった。 「ギターって繊細じゃん。湿度に気を付けてこまめに手入れしてあげなきゃいけないし、演奏するときだって、ただ強く掻き鳴らせばいいってものでもないでしょ。壊れないよう絶妙な力加減で抱きしめて、くすぐるように爪弾いたり、やさしーく撫でるようにストロークしないと出ない音がある。本能のままによがり狂わせて、アンプからやばいくらいセクシーな音が出た時なんて、ぞわぞわーって興奮して、ほんと演奏しながら勃っちゃうよね」 「……お前、その顔面だからって、何言っても許されると思うなよ」 タクヤさんはげんなりしている。 「ははは! まぁさ、女の子もやっぱり、通り一遍の扱いじゃ満足させられないし、バリエーションは大事ってことと似てない? いろんな方法で可愛がって、感じさせて……まぁ、別に女の子に置き換えなくたっていいよね。もっとわかりやすく、自分はどこをどんな風に触られたら気持ちいいか、より感じる場所はどこなのか。そのシチュエーションは? ちょっと想像してみてよ」 勇磨さんの独特な色気を含んだ声色と視線に、強力な磁力みたいなものを感じた。 (どこをどんな風に触られたら気持ちいいのか……) 一瞬の静けさの中、隣で佐々木が生唾を呑み込む音がする。 つられて喉がゴクリと鳴ってしまった。 「あれっ、ちょっと刺激強すぎたかな?」 勇磨さんがおとぼけ顔でタクヤさんに視線を送る。タクヤさんは無言のまま、額に手を当ててため息をついた。 「いやいや、自分が気持ち良いと思う音を見つけたり、聞き手の反応を感じ取ったり考えることって、立派なギターの演奏技術向上術だと思わない? どんな事でも角度を変えて見たら思わぬ事に役立つんじゃないかなって、俺は思ってるって話だったんだよぉ」 「いや、本当っす!なんか、すげー勉強になりました!!」 佐々木は意味不明な信仰心に駆られたようだ。 「デビューしたら色々制限厳しいし、何で炎上するか分かんないんだから、知らん人の前ではこういう話すんなよ」 タクヤさんは心から勇磨さんの事を思ってそう言っているように見えた。 「ははは、今日はすっごく楽しいから特別! ごめん!気を付けるよ」 勇磨さんはコロコロと笑っていた。 「ごめん」と言ったのも束の間、佐々木とタクヤさんがまたギター談義に花を咲かせ始めると、勇磨さんがこっそり顔を近づけてきて、耳元で囁く。 「ねぇねぇ。優ってさ、エッチな経験したことある?」 「えっ!? え、そんなこと……!」 余りにストレートな質問に、つい声が大きくなってしまった。 タクヤさんが勇磨さんをジロリと一瞥したが、勇磨さんはにっこり笑ったまま動かない。 「えぇ……な、ないですけど……」 勇磨さんにもギリギリ聞こえないような小さな声で、ぼそぼそと答えた。顔から火が出るほどに熱い。 (どうして勇磨さんに聞かれると、何でも答えちゃうんだ……!?) 「ふーん、そっか」 勇磨さんは微笑んで、少し何か考えたような素振りを見せた後、突然身を乗り出し、息がかかるくらいぐっと顔を近付けてきた。 薄く掛かった前髪の奥から、煽情的な瞳が覗く。 「でも興味はあるでしょ?男の子なんだし」 勇磨さんとの距離が更に近づく。 「ねぇ、俺、教えてあげようか?気持ちいいこと。男同士でもちゃんとできるんだよ。お互いのを触りっこしたりとかさ。それに、セックスだってね……」 アルコールを含んだ呼気と上品な香水の香りに充てられて、軽く脳が揺れた。 その時だった。 後ろから強く肩を掴まれて、勇磨さんの顔が急に遠ざかる。 そのまま反対の方から長い腕に引き寄せられ、背中に覚えのある熱を感じる。 振り返らなくても、誰の匂いか分かる。 「どしたの、ショウ?何か用?」 勇磨は慌てることなく、どこか物知り顔をしていて、それが余計にショウの感情を煽った。 「…………」 ショウは無言のままユウを抱く腕に力を込める。 「あーあ、いいとこだったのに。ね、優?」 ユウは感情が忙しく、どう反応したらいいか分からない。 「お前……からかってるなら止めとけよ」 しかし、ショウの言葉にただならぬオーラを感じ取り、ユウは途端にハラハラしだした。 「あのっ、俺、別に何も……」 ユウの言葉を遮って、勇磨がショウをまたけしかける。 「別にからかってるつもりないけど。そうだな。じゃあさ、ショウが気持ちいいこと色々教えてあげてよ!優は割と興味あるみたいだよ。ね、優! じゃーねぇ!」 勇磨は笑顔のままひらひらと手を振って、仲間のところへ戻っていった。 「あいつ……」 ショウが苦々しく声を震わせたが、当のユウ本人はボーッとして視点が定まっていない。 (気持ちいいこと、……男同士……触りっこしたい…?) 「ユウ? 大丈夫?」 至近距離で声がしたので、ビクリと顔を上げると、鼻と鼻がぶつかりそうになった。 ハッとして顔を手で隠そうと思ったのだが、体の自由が効かない。 ユウはまだショウの腕の中だった。 「うぅっ、うわあぁ……!」 ユウは体中が沸騰したように急激に熱くなり、文字通り顔から火が吹き出すのではないかと思った。 と、次の瞬間。 ユウの右の鼻から鮮血が一筋、音も立てずに零れ落ちた。 「ユウっ!!!!」 会場にショウの叫びがこだました。 その日の別れ際。 「勇磨、お前もうユウと接触禁止」 これまで聞いたことのない冷たい声と視線で、ショウさんが勇磨さんに言った。 「そんなぁ! 優、やっぱり俺のせい?俺のせいだよね。なんか毎回ごめんね!でも悪気はなかったんだ。もうしないから許して。また会おうね!」 「はい……いえ、違うんです。あればお酒が……」 「お前!また酒飲ませたのか!?」 ショウが間髪入れずに捲し立てる。 「えっ!? 今回は俺じゃないよ! 優、そうだよね!?」 曖昧な説明で、勇磨さんにあらぬ疑いをかけてしまった。 「あのっ、違います! そうじゃないんです。……とにかく、お騒がせしてすみません。今日のことはどうか忘れてください。それじゃあ、失礼します!」 恥ずかしさで死にそうになり、とにかく早く消え去りたい一心で、佐々木をおいて駆け足で帰った。 〈三〉 刺激と羞恥と後悔に満ち溢れ、疲弊してドロドロになりながら眠りについた、その夜のこと―― 「ユウ……こっち」 ショウの手に導かれ、ステージへの階段を上る。 その場には関係者だけでなく、ファンと思われる面々もいるのに、ショウは周りを気にすることなく堂々としている。 (みんな見てるけど、いいのかな……) 無言で前を行くその温かい手は、しっかりとユウの手を握り締めている。 そのままステージの裏手にたどり着くと、ショウは振り返り、ユウを強引に壁際に押し付けた。 「ううっん!?」 突然唇を奪われ、ユウは驚きのあまり目を開けたままだ。 ステージ裏は暗く、舞台袖のカーテンと壁で周りから見えにくくなっているとはいえ、すぐ傍で人の気配を感じ、ユウは必死にショウの胸を叩く。 しかし、長年の歌唱により自然と鍛えられたショウの胸板はびくともしない。 頭はショウの手に強く引き寄せられ、吸い付いては離れを繰り返すたび、ちゅくちゅくと卑猥な音がして、脳が痺れていく。 キスに溺れ、ユウが一人では立っていられなくなると、ショウはユウの身体を持ち上げるように一層強く壁際に迫る。  それから自由になった右手を下腹部へ伸ばし、容赦なくユウの敏感な切先を扱き始めた。 「んんんんっ!!」 唇を奪われたままのユウは、驚愕して小刻みに全身を震わせる。 更に信じがたいことに、ショウはつんと弓を描いたユウの秘刀を愛おしそうに見つめたかと思うと、ぱくりと自らの口に含んだのだ! 「はあぁぁぁっ!!」 思わず声が漏れ、ショウの後頭部をぐっと掴み、今にも弾け飛ぼうとする欲望をすれすれのところで耐え忍ぶ。 構わずショウは、喉の奥でユウを締め付け、舌で裏筋をくすぐりながら、ふにふにとした睾丸から後ろの蕾に向かって絶妙な力加減でまさぐりだした。 「ああぁ!!もうダメもうダメもうダメ!!」 「ショウさんっ!!イっ、ちゃう……!!!」 はっっ!!!  明け方、一人目を覚ましたユウは、そっとベッドサイドのティッシュケースに手を伸ばした。 (もう駄目だ! 完全に終わった……!!)

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