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第10話 高揚

〈一〉 二人がそれぞれ入浴を終え、就寝の準備を整える頃には、時計の針は深夜一時を過ぎていた。 「すっかり遅くなっちゃったね。今日は疲れたでしょ。さぁ、寝よう」 状況的にも物理的にも自然な流れだと理解はしているが、当たり前のように一つのベッドに並んで寝ようとするショウを前に、どうしてもぎこちなく反応してしまう。 ベッドに寝転んだショウが、布団を上げて自分を迎え入れる姿に生唾を飲む。 「あ、奥と手前、どっちがいいとかあった?」 「いえ、それは無いですけど……失礼します」 「はい、どうぞ」 硬い動きで布団に滑り込むと、ショウの匂いが一層濃くなり、顔に熱が集まってどうしようもない。 「ねぇユウ、緊張しないでよ。安心して寝ていいからね」 明らかに挙動不審なユウを見ていると、ショウはなんだか気の毒になった。 (ちょっと性急すぎたかな……) 出来るだけユウが意識しないように、落ち着いた空気感を出すように心掛けた。 「眠くなるまでちょっと話そう。今日さぁ、会場行ってリハ終わった後に散歩してたんだけど、商店街にめちゃくちゃ美味いコロッケ屋があったんだ。コロッケ屋て言うか、お肉屋さんか。お肉屋さんで作るコロッケって、揚げたてっていうのもあるんだろうけど、なんであんなに美味いんだろうね。分かる?家で作るのとは違う肉と油の、あの感じ。それでさぁ、最初コロッケ一個にしたんだけど、どうしてもメンチが食べなくなってきて……」 ショウは仰向けになり、天井を向いたままひとり話し始める。 はじめこそユウはポカンとしていたが、ゆっくりと沁み込むように流れてくる優しい言葉に、いつの間にか心地良く聞き入っていた。 「……そしたらまたシンがスミに突っ掛かりだしてさ、いつまでやってん…、だ……って?」 肩のところの裾をキュッと握られる感触がして、ショウが首を傾けると、熱っぽい表情のユウが穴が開きそうほどに見つめてくる。 「んー、どうした? うるさかった?」 せっかく平静を装っているのに、そんなことをされては努力が無駄の泡だ。 ショウの中の無理矢理眠らせていた龍が身を捩り、今にも目を覚まそうとしている。 苦し紛れにユウを抱きしめると、お互いの体と体の隙間がちょうど埋まるように収まった。 「ふふっ、フィット」 おかしみを込めてそう言ってから、もう一度並んで寝る体勢に戻ろうとすると、「あっ」と声がした。 腕の中の黒い塊を見やると、まだ熱の冷めない目をして、ショウのパジャマを握って離さない。 その上、幻聴とも思える言葉を発した。 「何もしないんですか?」 (はっ?) 一瞬、ショウの動きが固まった。 ただでさえライブ後で昂っている状態なのに、そんな求め方をされては、どうしようもない。 「ユウってほんとにさ……。お願いだから、俺を煽らないで。今日は俺、居てくれるだけでいいと思ってたんだけど……」 最後にダメ押しで牽制した。 それはユウのためだとも思ったからだ。 このまま進んだら、今夜は絶対に止められない。 「俺は、キスしたいです」 ショウは返事が出来なかった。 というのも、ショウが口を開く余裕もないままに、ユウが自らショウの唇を奪ったからだ。 (こんな時は男前なのか!) 思わずツッコミを入れたが、ユウが覚えたての深いキスでショウを誘い入れると、あっという間にショウのスイッチが切り替わった。 〈二〉 その後は一気に体勢逆転で、ユウの上に覆い被さったショウは、ガキ大将なんて可愛い類のモノではなく、完全に発情した雄と化していた。 「俺、今日止められないから」 その言葉と同時に肌にピリリと刺激を受け、体が微かな悦びに震える。 実のところユウは、心のどこかで今夜はその先があることを期待していた。 「あっ!」 ショウはユウの首筋に歯を立ててから、ざりざりと舌を這わせてくる。 「ショウさんっ! んんっ……!!」 また唇が深く合わさり、生温かいショウの舌に上顎をなぞられる。 いつもの優しいキスとは全く違う。 前に一度だけ感じた、何もかも飲み込むような、あのキスだ。 ショウはまた蛇のように舌を這わせながら、同時にユウの寝巻きを剥いでいく。自分の服ですら、ユウの素肌に触れている事が疎ましい。 「ふっ……あっ…、ショウさん……」 「ショウ」 「……?」 「ショウって呼んで」 「え……?あ、……あっ!」 今度はユウの体を弄りながら、耳に歯を立てる。 「呼んで、ユウ」 耳元に息を感じたその瞬間、丸ごとショウに飲み込まれた。 「ああぁっ、っ!!」 「言うまで止めない」 下腹部にすっかり熱く滾った塊を押し付けられ、気付けばユウの下半身にも熱が集まってくる。 びちゃびちゃと音を立てて、ショウの舌が耳の中を隈なく這いまわり、ユウの全身が粟立つ。 「うぁ!まっ…て、ショウさん……!」 「“言って”」 少しの反論も許さない、刺すような低い声が、脳細胞に直接命令を下す。 圧倒的な独占欲に、ユウの中のマゾヒズムが煽られ、たまらずその名を呼んでいた。 「っ、ん……ショウ、ショウ!んぁあっ!」 更に興奮したショウは乱暴に自らの上着を脱ぎ捨てると、荒々しい息遣いのままユウの両膝に手を掛けた。 「はっ……」 ユウはこれから自分の身に起こる未知にまだ気付いておらず、ショウにされるがままに開脚する。 ずぷぷぷぷ…… 突然ユウは、生まれてこの方認識したことがない方向から何かが侵入してくるのを感じた。 (……!?) 「痛かったら言って。できるだけ優しくしたい」 しかしショウの声には余裕がない。 「あっ……えっ!?」 よく手入れされた皮膚の薄い指が、ゆっくりと内壁を擦りながら、ユウの中に入っていく。 それから何度も出たり入ったりしては、入口でくちゅくちゅと水音を立てている。 痛みというか違和感というか、自分の意志に反して蠢く何かのせいで、ユウはどうやって息をしたらいいのか分からなくなっていて、その動きに合わせて勝手に声が出ていく。 「あっ……、はあっ、あぁ……」 「ユウ……ユウ……、ねぇ、もっと感じて」 ショウはユウの首元に擦り寄り、掠れた声で何度もユウの名を呼ぶ。 未だかつて、こんなにも強く誰かに求められたことはない。その充足感に気づいた時、先程の驚きですっかり萎えていたユウの陰茎に再び興奮が蘇る。 「っ……もう少し、動かしていい?」 ショウがまた耳元で切なく鳴いた。 「うっ、はっ……ん……」 ユウが途切れ途切れに頷くと、ショウは更に指を増やし、ユウの中をかき回しながらゆっくり大きく抜き挿しする。 ぢゅっく……ぢゅっく……ぐぷ、ぢゅく…… ショウの目は獲物を狙う獅子のごとく仄暗く殺気立っていき、息も更に荒々しく肩を揺らしている。初めて見るショウの本気の雄の表情は、ユウの感情を淫らに搔き乱した。 「あっ、んあっ! ショウさん……!!」 突然の春の訪れで忽ち開花させられた紅色の蕾は、いつの間にかすっかり懐柔されて、とうとうヒクヒクと訴えるように自ら蜜を蕩け出してショウを誘いはじめ、ショウの視界に揺さぶりをかける。 その時、 「ぅあああっっ!!!」 腹の奥の、何かとてつもなく大事な部分を突つかれて、ユウは気が狂いそうな激しい快感に襲われた。 「ひっ! あ、触っちゃダメ!そこダメ!おっ……かしい!」 本能的に守らねばならない場所だと悟ったユウは、大きく腰をくねらせて、ショウの指を遠ざけようとする。 「ユウ、逃げないで」 ショウは懇願するような切ない声を上げ、もう片方の手でぴくぴくと震えるユウの細棒を愛撫しはじめる。 「あっ……ユウ……。ね、気持ちいい……」 ショウはいつの間にかユウの太腿で小刻みに腰を振っているではないか。 夢の中の方がまだリアルに感じるほど、まるで現実味のない卑猥な光景と、襲い掛かる快感の波は、次第にユウを絶頂へと追い詰めていく。 「はぁ(はぁ)、はぁはぁ(はぁはぁ)、んっ!はぁはぁ……!」 もはや、どちらが発したのか分からないほどに混ざり合った淫らな吐息が、部屋中をやまびこのように呼応する。 「んんっ、はっあああ!!!も、だめ!!!」 ……ぷしっ!!! ユウの体から、激しく飛沫が上がった。 〈三〉 稲妻が全身を駆け抜けた後、視界は靄に包まれユウは脱力していた。 「ユウ、挿れたい」 先程までの冷徹な独裁者は身を隠し、ショウは慈しむように囁いた。が、次の刹那、その声からは想像もできないほど滾りきり、破裂寸前の肉棒が、ユウの後孔をゆっくりと圧し拡げてげてくる。 今にも情欲を吐き出そうとパンパンに膨れ上がった亀頭は、ユウの内側の襞ひとつひとつに接吻をしながら上っていく。 そして、ユウの最も脆いあの場所の前に辿り着くと、こつんと頭をぶつけた。 「ふぁっ! ああぁぁぁっ!!!」 ショウの渇望は留まるところを知らない。 そのままユウの反応を待たずして、破裂しそうに熱く火照った剣先で、幾重にも重なる門を何度も挿き続ける。 「んあぁっ!!!」 ショウは完全に我を忘れたように腰を振っている。 「あっ!やっ……!っは!あっ、ん!はぁっ……」 ユウはもはや瀕死の状態だ。 段々と感覚があやふやになってきて、藁をも縋る思いで、ショウの上腕を掴む。 しかし、途切れそうになるユウの意識を強引に引き留めるように、ショウは絶え間なく奥を挿き続け、飽きることなくユウの口蓋を舌先でいやらしくなぞってくる。 淫らに響く水音と、自分のものとは思えない嬌声に、ユウは苦しみを通り越して、またしても新たな快楽の深みへ堕ちようとしている。 ちゅくちゅく……ぐぷっ! パン、パン、パンパンパンッ!! 「はっ、うぅ……んっ! ショウさん……!! もう、壊れるっ! う、うぁっ!!!」 肌を叩く音が大きくなり、ショウが一層早く奥へと腰を挿くと、もうこれ以上隙間の無いはずだった場所が、内側からまた一回り拡げられて、ユウは心底驚いた。 けれど、目に大粒の涙を溜めて哀願するユウの願いは届かず、太腿を広げるショウの指は、皮膚を突破りそうなほどに強く食い込んでくる。 ショウの無駄のない引き締まった肉体に玉のような汗が噴き出し、ユウはしがみつこうにも手が滑って掴めない。 「うぁっ、ん!!! だめっ、ショ……うさん! いやっ! ぁっ、ダメぇ!!」 「くっ……、ふぅっ……っ!」 ショウは幾度も緊張がピークに達しては、何とか熱を逃がしていたものの、とうとう我慢が利かなくなり、追い打ちをかけるようにユウを深く、激しく挿いて揺さぶりをかける。 「……っユウ、出すよ。イク……っ!」 消え入りそうなショウの声。 次の瞬間、これまで以上の強い衝撃がユウの頭まで劈くように襲いかかった。 「あああぁっ、んんんんんっ!!!」 視界が真っ白になる時、ショウを最奥で受け入れ、同時にユウ自身から弾け飛んだ白濁の果汁が、生温かく腹に広がった。 〈四〉 明け方、ユウが目を覚ました時、ショウにしっかり抱きしめられていて寝返りが打てず、ショウを起こさないようにそっと腕から抜け出して、体を動かした。 次に目覚めた時、不思議なことにユウはまたショウの腕の中に包まっていた。 「あー……おはよう、ユウ」 ショウさんは目を覚ましていたのか、ほんのわずかな動作で、起きたことに気付いたようだ。 「おはよう……ございます?」 あんまり声が掠れているので驚いた。 「今、水持ってくるから」 ショウさんはそう言って何も纏わずにキッチンに向かったが、戻ってきた時は少し照れていた。 「ごめん、そのまんまで」 手渡されたペットボトルを受け取ろうと体を起こした時、腰に鈍痛が走った。 「……!?」 「あっ、体!痛い……よな。無理しないで、楽な姿勢でいてね」 ショウさんは何か察したらしく、ベッドに戻るともう一度体を倒し、しばらく頭を撫でてくれた。 昨日はいろんなとこがあり過ぎて、思い返すのも一苦労だ。ライブに行ったのが随分前のことのように感じる。 (何より一番衝撃的なのは、やっぱり……) 思い返すのも躊躇う程に自分が乱れていたことは、この惨状から見ても明らかだ。 それでも、ショウさんと繋がれたことに、これまで感じたことのない多幸感を覚えている。 今を何よりも大切にしなきゃいけないのは事実だと思った。 「ショウさん……」 「ん?」 「あけましておめでとうございます」 ショウさんは、「あっ」と一瞬大きく口を開けた後、目尻を下げてにっこり笑った。 「あけましておめでとう。今年もよろしくお願いします」 そう言って、額に優しいキスをくれた。

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