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囚愛Ⅲ《雅side》4
「《MiYaVi…もう少し休憩したら?》」
「《先生、しばらくがむしゃらに踊っていたいから休憩は最低限でいいです》」
ダンスの練習中も、アルベルトのプロポーズのことが頭を過ってしまう。
だから忘れられるように、ダンスの練習に集中しまくって自分を追い込んで脳内からその出来事を忘れたかった。
数日間、無茶した結果―……
「ダメだー…」
夕食後シャワーを浴びてリビングに戻ってソファーに座った瞬間、立てなくなった。
「さすがに無理しすぎた…」
俺は昔からこうなんだよな。
嫌なことがあるとそれを忘れようとがむしゃらに踊り続ける。
で、こうなる。
明日からは無理しないようにしよう。
てか、このソファーめちゃくちゃ気持ちいい。
目閉じたら別世界に行きそう―…
「雅様…?」
ん…呼ばれてる?
誰か近くにいるな、テリー?
ごめんね、俺もう今はほぼ別世界にいるからほっといて。
「雅様」
いやもう無視一択。
俺もう動けないし、いま最高潮に気持ちよく眠ってるからさぁ。
「雅様…起きてください」
体を揺らさないでテリー。
そっちには行きたくない。
夢と現実の狭間でふわふわして気持ちいい状態なんだ俺は。
「雅様!みや―…」
しつこく体を揺らすテリーを黙らせようと手を引っ張り、背中を抱き寄せてうっすらと目を開けてその人物を見た。
「―…うるさいよ」
目を開けるとそこにはエリックがいた。
「起きていたのですか?」
テリーだと思っていた人物がエリックだったことに脳が少し驚くも、眠気のほうが勝ってリアクションが取れなかった。
「いや…人の気配を感じたから。うるさいから抱き寄せたらエリックだった」
そうだ、ここは日本じゃなくてアメリカだった。
テリーじゃなくてよかったと思い、俺はエリックを抱き寄せたまま、ふっと笑って見せた。
「私じゃなくてテリーでも同じことをしましたか?」
「いや、テリーだったら…俺の本能が抱き寄せたら危険だって拒否してると思う」
テリーだと思って抱き寄せておいて何を言ってるんだろうと思って笑ったのと同時に、エリックが俺のその発言で笑った。
それに安心して、俺は再び目を閉じて眠りの続きをすることにした。
「雅様、いけません。ベッドで寝てください。体が休まりません」
あぁ、懐かしい。
日本でもよくエリックとこのやり取りしてたなぁ。
「今日ダンス凄く疲れたからさ…動けないんだ。そうだエリック、マッサージして。昔みたいにさ」
そう言うとエリックはリビングから出て行き、数分後にボディクリームを持ってきてくれた。
「どこが辛いですか?」
「ふくらはぎ…パンパンだと思う。あとハンドマッサージもして。あれ好き」
「かしこまりました」
蓋を開けて、クリームを手に取り俺の脚にそれを滑らせる。
あぁ、懐かしい。
張っている脚をマッサージされながら、俺はエリックがいなくなった間の出来事を話し始めた。
「そういえば竜がさ…ハルカさんと結婚してたんだよ」
「竜が?いつですか?」
「高3の8月…卒業するまで内緒にされててさ…俺学生時代、人妻が同級生だったんだーって驚いたよ」
竜は高2の秋に最愛のお兄さんが亡くなって、死のうと思っていたときにライバルバンドのベースのハルカさんと同棲をし始めた。
それからプロポーズされて、高3の8月竜の誕生日がきて18になった時に入籍したらしい。
でも在学中は一部の先生しかその事実を知らなかったし、親友の俺たちにも隠してたんだよなぁ。
「JEESも人気になりましたし、公表のタイミングが難しいですね」
「同棲婚は日本じゃまだ偏見もあるしね。でも竜は凄く幸せそうだよ。嵐も遠距離の先輩が日本に戻ってくるって―…」
それから嵐の話しをしたり、日本での出来事をエリックに話した。
エリックがドイツ語話せるから覚えたくて大学でドイツ語を専攻してるという本当の理由は言わず、分からなかったらテリーに課題をやってもらえるからと嘘をついて笑いながら話した。
「それでは私たちのドイツ語が聞き取れていましたか?」
「いや、無理だった。早すぎて」
するとエリックはドイツ語で俺に話しかけた。
「“私たちの―……聞き…――……?”」
「“ごめん…もっとゆっくり”」
「“私たちの…、会話が…、聞き取れて…、いましたか?”」
「“聞き取れませんでしたエリック先生”」
そんなふざけた会話をして笑い合って。
「このボディクリーム懐かしい…いい匂い…また寝そう…ねぇエリック…手…貸して」
しばらくしてハンドマッサージをしている途中で、再び睡魔が襲うのでその前にエリックにお礼をすることにした。
俺は差し出されたエリックの手を取り、自分の唇へ引き寄せて、その手の甲にゆっくりとキスをした。
そして唇を離してエリックを見つめて言った。
「マッサージのお礼…ありがとうエリック」
なーんて、さ。
本当は唇にキスして、舌で唇を開けて絡めてお礼をしたいんだけどなぁ…と思った頃には夢の中だった。
そんな夢の中の俺は、アルベルトのプロポーズを阻止するために必死になってた。
エリックが幸せなら仕方ないよ、諦めろよ、ともう一人の俺が慰めていた。
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