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囚愛Ⅳ《雅side》2
「やっぱり忘れ物を取りに来た」
俺だということに気付いたのか、エリックは俺の手を両手で強く握りしめて応えた。
「あなたは…何なんですか…またねと言ったり、もう会わないと手紙を残したり、戻ってきたり…私をからかっているんですか?」
その両手で涙を拭うかのように自分の顔につけて、エリックの涙が俺の手に触れる。
あぁ、俺のためにこんなに涙を流して―…
この姿を見たら、俺は帰れない。
エリックを離したくない。
たとえ自分が弱いとしても。
「私は…あなたを愛してはいけない。雅彦様の死を受け入れてはいけない。生きていてはいけ―…」
彼の口からはネガティブなことしか出てこない。
でもさ、態度が真逆なんだよ。
俺の手を強く握って離さない。
「うるさいよ、少し黙って」
俺は抱きしめていた手を放し、エリックの顔を掴んでキスをした。
「父さんだったら、エリックが生きていて、俺が生きていてよかったと言うはずだよ」
そして再びエリックを抱きしめた。
「本当はこの3年、捨てられたんだと君を憎んで会ったら怒鳴ってやろうと思ってたんだ。でもダメだった。見た瞬間、それがすぐに愛で上書きされて―…この3年、エリックを想わなかった日は無い」
その発言で、エリックは振り返って俺を見つめる。
こんなに泣いているエリックを見たことが無い。
彼の目からは涙が溢れて止まらない。
「あんな別れ方をしたのに私を想っていたなんて。…おかしな人だ」
「俺はもうずっと…10年以上エリックを思っている。だから責任とって」
あぁ、エリックも弱いんだ。
守りたい。
俺が時間をかけてもっと強くなってエリックを包みたい。
「どうしろと?」
「残りの人生、俺を愛して」
「…」
その答えにエリックは考え込む。
もうさ、俺たち離れる理由が無いんだよ。
俺はそんな黙るエリックに数秒間キスをして、口を放したあとにお互いの額をつけて言った。
「嫌ならもう生涯君には会わない。もう二度とエリックの前には現れない。俺の幸せはエリックの幸せだから。エリックはどうしたら幸せになれる?俺がいなくても幸せ?」
「ずるい人だ。私の気持ちを知っておきながら―…」
そう言って、今度はエリックから俺にキスをする。
舌を絡める音と、口から漏れる吐息と、時計の秒針の音だけがする空間が広がった。
「いいのでしょうか?私があなたを求めて、幸せになっても…」
「父さんに囚われた者同士、傷を舐め合っていこう」
「―…はい」
深い、深いキスの後、俺たちは愛を確める。
「エリック、名前を呼んで」
「…雅」
「愛してるよエリック。もう俺をひとりにしないで…」
「私も…愛しています雅。私の…私の傍にいてください」
「うん。離さないから、離れないで」
何度もキスをして、何度も抱き合って、朝になってお互いが隣にいることに幸せを感じて。
そして俺は大学を辞め、22歳の5月アメリカへきた。
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