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第35話 秋月と戯れ⑩※
呆然と直澄を見つめれば、直澄はくつくつと喉で笑いながら、面白がるように幻乃を見た。
「そんなにも良かったか」
「……っ、おかげさまで」
「お前もそういう顔をするのだな。そんな、余裕のない顔を」
「誰のせいですか?」
達する寸前で止められた苦痛に、幻乃は恨みがましく直澄を見ることしかできない。
上機嫌に唇の端を上げたまま、直澄は幻乃の片足を無遠慮に押しのけ、股を開かせた。|抽斗《ひきだし》から取り出された香油が何に使うためのものなのかは、言われるまでもなく知識としては知っている。
「力を抜け」
たっぷりと香油を纏わせた指が、手加減も何もなく当たり前のように後孔へと押し入ってくる。引きつるような痛みと強い異物感に、幻乃は奥歯を噛み締めた。
自分が抱く側であることをかけらたりとも疑わない、直澄の傲慢さが鼻につく。今からでももう一度組み敷いて、その涼しい顔を歪めてやったらどれほど胸がすくことだろう。
我が物顔で体内を弄る指の不快感に堪えかねて、今からでも遅くないと身を起こそうとしたそのとき、一際奥に、直澄の指が忍び込んで来た。強くなった異物感に、たまらず幻乃は顔を歪める。
「……いっ」
「狭いな」
「と、うぜん、でしょう。ご不満なら、今からでも代わりましょうか、直澄さん。あなたの方が、上手く受け入れられるかもしれませんよ」
九割型本気を込めて恨み言を囁いたが、直澄は幻乃の言葉を聞いているのかいないのか、不思議そうに幻乃の体内を探り続けるだけだった。
「なぜ、そうも苦しがる? 別に経験がないわけでもないだろう。お前は榊俊一殿の、稚児だったのではないのか」
「はあ?」
あまりにも馬鹿げた言葉が耳に届いたものだから、それまで浸っていた淫猥な空気も忘れて、幻乃は剣呑な唸り声を上げた。
「それは俺と俊一さま、両方への侮辱です。俊一さまは大層な愛妻家でいらっしゃいました。衆道でさえも奥方への裏切りだと言って手を出されなかった。俺だって、主人とそんなこと、したくないですよ。想像するのも気色悪い」
「お前は流れ者だと言っていた。体もまだ出来上がらぬうちから戦場に出ておいて、一度たりとも誰の慰み者になったこともないと?」
「逆に聞きたいですけど、俺より弱い者に、なぜ俺がわざわざ足を開かねばならないとお思いで?」
小柄な体格のせいで、女日照りの者たちにそういった目で見られたことがないわけではないが、身の程知らずどもはすべて腕っぷしで叩きのめして後悔させてきたのが幻乃という人間だ。
「こんなこと、あなたが相手でなければ許すものか……!」
憤怒のままに言葉を吐けば、鳩が豆鉄砲を食ったような顔をして、直澄は動きを止めた。
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