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第36話 秋月と戯れ⑪※

「……そうか。すまなかった」 「え……」  直澄が謝罪の言葉を口にしたのも衝撃的ではあったが、その表情は余計にわけが分からなかった。  直澄は、薄がりでも分かるほどに目元を赤く染めていた。幻乃の見間違いでなければ、その顔に浮かんでいるのは似合いもしない照れの色だし、手で口元を覆ってこそいるが、緩んだ唇が隠しきれていない。  怒っているんだか照れているんだかも分からない不思議な表情は、奇妙なほど幼く見えた。普段は本人の不遜な態度のせいで忘れがちだけれど、そういえば直澄はいくつも幻乃より若かったのだと、唐突に思い出す。   「いや、別にいいですけど……ひ、んっ!」  調子が狂うな、と思いながら口を開こうとした瞬間、体内に入り込んだままだった直澄の指先が、ある一点を掠めた。 「あ、ぇ……?」    ぞわりと腰から全身に響くように走った快楽に、幻乃は目を見開いて体を震わせた。慌てて手で口を覆おうとしたけれど、目ざとくそれを見咎めた直澄が、片手で幻乃の手を押さえ込んでしまう。 「悪くは、ないだろう? お前に教えてやれることがあるとは、思わなかったな」 「ぇ、うあ、ひっ! ま、待ってくだ――」 「戦闘も謀略も色ごとも、いつだって余裕綽々で、嫌味な笑みを崩しもしない、名高い『狐』――お前の体を初めて暴くのは、俺か。……光栄だな、幻乃」  嫌味なのかと言い返す間もなく、恭しく(まなじり)に口付けを落とされた。耳元には愉悦を交えた低い声が響き、ひと回り大きな体を使って押さえこまれた体の奥では、長い指が的確に幻乃の官能を呼び起こしていく。身動きできない状態で、経験したことのない類の暴力的な快感を容赦なく与えられて、幻乃はろくに言葉を発することも出来ぬままびくびくと身悶えた。 「あ、んっ! うァ……っ、や、……っ」 「大丈夫。時間を、……っ、かけるから」    明らかな興奮に上擦っている直澄の声を、笑ってやるだけの余裕もなかった。ぎらぎらと底光りする瞳に見つめられながら、幻乃は身をくねらせる。  過ぎる快感に身を捩れば、立ち上がった性器を直澄の体に擦り付け悶えるはめになり、呼吸を整えようと息を吸い込めば、その瞬間を見計らったかのように直澄の指の動きが大胆になる。余裕という余裕を、直澄の指と舌で一枚一枚、丁寧にはぎ取られていく気分だった。  尻の奥深くを探られることは気持ちのいいことなのだと体が覚えたころには、中に感じる圧迫感が増えていた。二本、三本と体内を広げる指の数が増えるごとに、それを苦痛なく受け入れる方法を、幻乃は学習していく。 「そう、上手だな。幻乃」 「あ、ぁあァ!」  前と後ろを同時に刺激されて、抗う間もなく押し寄せる絶頂感に、幻乃はすすり泣くような声を漏らす。気をやるような感覚が何度も続くのに、なまじ快楽が大きいだけに、うまく達することができない。体内に潜り込んだ直澄の指先が動くたび、ぞくりと力の抜けるような感覚が生まれ、一拍遅れて全身にその快楽が広がっていく。終わりの見えない快感は、まるで拷問のようだった。   「あ、待って、まって……っ、ふ、ぁ……っ、あ!」  自制も捨てて、幻乃は半泣きになりながら直澄に縋り付く。くすり、と隠そうともしない笑い声が聞こえてきたけれど、気にしていられるだけの余裕はとうに失っていた。

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