26 / 82

第26話 冬の訪れ

花火大会に行った後も、憂太の練習の彼女役という不思議な関係は続けている。 憂太への想いは一時的な気の迷いかと思いたかったが、吐く息が白くなる季節になっても好きだという気持ちは変わらなかった。 ただ、好きだと伝えても良いのか、伝えない方が良いのかと、日々悶々としている。 だからこそ、定期的に擬似恋人を演じることで、自分は憂太にとって特別なんだと自分の存在意義を確かめているのかもしれない。 「あぁー、駅の地下あったかー」 「今日、外ほんとに寒いね」 「もう俺凍え死ぬとこだったわ」 「湊大げさだなあ」 寒さで鼻の先が赤くなっているよと、憂太がこちらを指さして笑っている。 大学はあと1週間で冬休みになる。 テレビではクリスマス特集が連日放送されていて、周りの友達たちもクリスマスを恋人と過ごしたいからと合コンやらなんやらと忙しそうだ。 そんな中、クリスマスにあまり興味がなさそうな憂太と2人でハマっているゲームのポップアップショップへ向かっている。 「あ、湊、見て!」 「んぇ?」 「こっちこっち、あれ、最近めっちゃ話題の映画の宣伝」 「ほんとだ、すげー」 駅の中にある長い電子掲示板には、国宝級イケメンだと評判の俳優が2人がW主演している恋愛映画の宣伝が流れている。 高校生の恋愛模様を描いた作品で、学内で男女共に人気が高い幼馴染みと、マネージャーをしているバスケ部キャプテンでスポーツ万能な先輩と三角関係になってしまうというものだ。 「ちょっと止まって見ていいー?」 「うん、良いよ」 駅構内の歩道に設置された掲示板であるデジタルサイネージの前に立ち、5〜6分程の映画の予告を眺めた。 「うわー、これ続き気になるー。どっち選ぶんだろ」 「あはは」 「え、憂太気にならない?」 「んーなる。ポップアップ行った帰りに時間があれば観る?」 「え、観よう観よう」 「じゃあ映画デートだねー」 「え?映画…デート…」 「教えてね、彼氏としての振る舞い方」 いじわるな顔をした憂太が楽しそうに言ってくる。 「な…良いよ、教えてやる!」 そんなつもりで観ようと言ったつもりではなかったのに、映画デートだと言われると急に意識してしまう。

ともだちにシェアしよう!