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第28話 嘘が下手な湊

「あぁ、ごめん、座席だよな、後ろが良いかな」 理解が追いついていなさそうな憂太に何事もなかったかのように返事してみる。 「後ろね…1番後ろでも良い?」 さっきの発言を特に言及してこなくてホッとした。 「うん、良い、ありがと」 「よし、予約完了っと。で、さっきのは何?」 「え、どれ?」 「スーパーダーリンてなに?」 一瞬でもホッとしたのは間違いだった。 首を傾げながら、片方の眉を上げて口元は笑うのを我慢している。 これは憂太が何かいたずらしてやろうって思っている時の顔だ。 「なんでもない、たまたまさっき目に入った広告の文字が口から出ただけ」 「はい、うそついてる」 すぐに嘘だとばれる。 「湊、嘘つくの下手すぎ。本当は?」 「…憂太がさっと丁度いい上映時間見つけて、座席の希望まで聞いて予約してくれるのを見てたらそう思っただけ…」 恥ずかしくて小さい声なのに早口になってしまった。 「ふふ、なんでそんな可愛いこと言うの、あはは」 憂太が柔らかな声で笑った。 「え?」 もっと「湊、僕が予約してる間ずっとかっこいいな〜って見てたの?」とか「僕がスーパーダーリンに感じるなんて乙女なんだね」とかいじわるな返しをしてくるのかと思った。 「なに、いじわるなこと言われると思った?」 考えていたことをそのまま言われて、いじわるされるのを待っていたみたいで余計に恥ずかしい。 「湊は今から彼氏の振る舞い教えてくれるもんね」 「…うん」 少し腹が立つのに、心臓の鼓動が速くなっているのがわかる。

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