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第38話 手を繋いで歩く理由
「別に良くない?誰も見てないよ」
憂太の雰囲気に流されて手を取りたいのに、周囲の目が気になって勇気がでない。
「でも」
「んー。かっこいい彼氏って、こういう時どうしたらいいの?」
「え?」
「彼氏なら、彼女が手を繋ぎたそうにしてるとき、どうするのが正解ですか、先生?」
このタイミングで「彼氏の振る舞いを教える」という設定を持ち出してくるなんてずるい。
「えと……彼女の手をとって」
うん、と頷いた憂太が言葉通りに俺の手を取る。
「このまま握っていい?」
「いや、えっと、自分のポケットに入れて歩く…とか」
「こう?」
憂太が軽く握った手を自分のコートのポケットに入れ、中で恋人繋ぎに握りかえた。
「ゆうた…?」
「ん?こうするとあったかくて良いね」
「…ん。そだな」
大人しく憂太の手を握り返した。
しばらく歩くと、横断歩道の信号が赤になった。
青になるのを待っていると、後ろの方から女の人がこそこそと話す声が聞こえてくる。
「ねえ、見てみて、あの男の子たち。片方の子のポケットに2人で手入れてる」
「どこどこ?」
「すぐ前だって」
自分たちのことだとすぐに分かった。
「(あぁー、やっぱり男2人で手繋ぐとか変な目で見られるよなぁ)」
恥ずかしいから手を繋ぐのをやめようと言いかけた瞬間、さらに女の人たちの話し声が聞こえてきた。
「付き合ってるのかな、ただ仲良しなだけなのかな」
「どっちでも良いよね〜、なんか青春って感じがして」
「わかる!青春って感じでかわいい」
「だよね、かわいい〜」
まさか「青春っぽくてかわいい」なんて言われると思わなかった。
「あ、信号変わった、行こ」
憂太は周囲の目なんて気にしていないのか、ポケットの中で手をギュッと握ったり、フワッと握ったりして楽しそうだ。
「(まあ、憂太とこうしていられるなら、周りなんて関係ないか。)」
そう思うと、街中の恋人たちが腕を組んだり、手を繋いだりして歩く理由が理解できた。
それに、もう恋人ごっこじゃなくて、ちゃんと気持ちを伝えて、本当の恋人になりたいと思った。
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