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第44話 大声
「(違う、憂太にこんな顔をさせたい訳じゃない。それに俺たちは本当の恋人じゃないし、俺も憂太に嘘ついたままじゃん)」
頭では落ち着いて話をしないといけない分かっているのに、口から飛び出す言葉を止められない。
「じゃあ何だよ。なんで言ってくれなかったんだよ。俺、お前の言葉信じて……恋人の練習とか言ってさ、完全に馬鹿じゃん」
泣きそうになってる憂太よりも先に涙が出てくる。
「ほんとに騙すつもりじゃなかったんだ、湊、聞いてくれ!」
「やだよ!何を聞くんだよ、お前が俺に嘘ついてどうやって楽しんでたかってことをか?」
ショックが大きすぎて、必死に弁明しようとする憂太の声を遮った。
「騙すつもりなんてある訳ないだろ!!」
初めてこんな憂太の大きな声を聞いた。
大声を聞いて、はっと我に返った。
まっすぐ俺を見る憂太の目には、今にもこぼれ落ちそうな涙が溜まっている。
「…頼む、湊。聞いてくれ、ちゃんと話すから」
憂太の震えるような弱々しい声を聞くと、泣きやみたいのに涙が止まらない。
「…やだよ。聞きたくない。こっち来んな」
俺の目から流れる大粒の涙を拭こうと、憂太の手が頬に触れた。
憂太の手は冷たくなって、震えていた。
「さわんなぁ…ひっく…」
泣き顔を見られないように膝を抱えたまま俯いた。
………ぎゅ。
温かくて、安心するいつもの体温と匂いが俺の身体全体を包み込んだ。
憂太が膝を抱える俺を横から抱きしめていた。
「湊…本当にごめん。いつかきちんと話そうと思っていたんだ。ただ…話したら今の関係が終わるかもしれないと思うと怖くて…でも、正直に話すから聞いてほしい」
耳元で憂太の優しくて、少し掠れた低い声が聞こえる。
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