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第50話 過呼吸/憂太の過去(6)

「……それから、いくら本当のことを話しても、信じてもらえなくて。どうしようって思ってたら、どんどん息苦しくなってきて、目の前がぐにゃってなって、気がつけば保健室で寝てた」 誤解が解けなかったのは、麻生さんの彼氏が持つ元々の影響力のせいなのか、告白してきた女の子を泣かすという憂太の悪い噂のせいなのか、今でも原因は分からないと憂太は続けて話した。 もし、俺がその場にいたら大暴れしてやったのにって思う。 「その日から、教室に入ろうとする度に過呼吸になっちゃって…っはぁ…何回もチャレンジしたんだけど…」 落ち着いてきてた憂太の呼吸がまた速くなって、過呼吸になりかけている。 急いで身体の向きを変え、憂太と正面から抱き合う格好になった。 苦しそうな憂太の呼吸が少しでも楽にできないかと、大丈夫、大丈夫と声をかけながら憂太の背中をさする。 「…あとは…もう卒業するまで保健室登校してた。…クラスの友達だった子とも話してないし、誰にも会ってない。卒業式にも行ってない。だから…卒業アルバムも開いてない」 「(じゃ、本当にあの手紙は知らなかった…?)」 「ぅう…こんなことで…学校に行けなくなっちゃうなんて…ほんと情けない奴だよね」 さっきまで泣くのを堪えながら必死に話していた憂太の頬には涙が伝っていた。 「そんなことない。憂太、情けなくなんかない。すっごい頑張ってたと思う」 憂太の心の痛みを和らげることができる言葉がないか探す。 こんな時に限って上手い言葉が見つからない。 「ひっく…いつか話さないとと思ってたのに…思い出すと過呼吸になって…ずっと話さなくてごめん。わがままだけど…嫌いにならないでほしい…」 「嫌いになるわけないじゃん!俺、憂太のこと好きだよ。全部好き。彼女がいたからって変わんないし、これからも好き。つらい過去を思い出させて、ほんとに無神経だった。ごめん」 あれだけ知りたいと思っていた憂太の過去は、俺が想像していたものとはかけ離れていた。 それに、憂太をこんなに追い詰めてまで吐かせる内容だったのか、自分自身の隠しごとはいつ打ち明けるのかと考えると、心の中がぐちゃぐちゃになった。

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