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戀する痛み 24
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そんな状況で泣き続けて。
ドアの向こうでお母さんが大声に驚いて2階に上がってきて、泣きじゃくっている美影ちゃんにびっくりして、1階に連れて行っている様子をドア越しに感じていた。
それからは静かだった。
お母さんか、お父さんが来るかもしれないと思っていたけど、ボクのことは放置すると決めたみたいで、誰も部屋には来なかった。
いつもだったらすぐにどちらかが来てくれて、色々と話しを聞いてくれたのに。
やっぱりボクのことなんかどうでもいいんだ。
そんな風に悪い方に解釈して、甘ったれた、自己中な文句を垂れ流したりする。
本当はわかっている。
ボクと美影ちゃんがここまで喧嘩することなんてなかったから、どう接したらいいのかわからないのと、一晩触らないで落ち着いた頃に話しを聞こうとしてくれているんだって。
そんなふうに、配慮してくれているって。
別に嫌いだから放っておいているとか、めんどくさいから話しを聞かないとか、そういうことじゃないって。
むしろボクの気持ちを考えて、考えて、考えすぎて、少し距離を置いてくれているってことくらい、バカなボクでもわかっている。
本当はわかっている。
ボクはベットに横たわって、枕に顔を押し付けてうつ伏せになり、涙と鼻水で枕がぐちゃぐちゃになるのも構わず、そのまま泣き続けていた。
何も考えたくないし、何も感じたくない。
このまま溶けて、消えてしまえればいいのに。
最初から存在しないのならば、そっちのほうが良かった・・・。
そのほうがこんな想いをしなくて済んだのなら、そのほうが良かった・・・。
いつもなら考えないようなことを考えて。
どこまでもズルズルと、落ちたくないところまで、落ちていきそうだった。
そうして眠りに落ちて・・・嫌な夢を見る。
家族のみんながいなくて。悠貴さんもいなくて。友達も、知り合いも。
みんなみんなどっか行っちゃって。
探して。必死に探して。泣きながら走って走り回って探して。
目を覚ます。
大きな呼吸を繰り返しながら、止まらない涙を流し続けて。
枕を抱きしめて、叫びそうな心を抑えつけて。
しばらくしたらまた眠って。
また目を覚まして。
そんなことを何度も繰り返していた。何時間たったのかもわからない。
お腹もすかないし、排泄欲求もなく。自分が生きているのか死んでいるのか。
存在しているのか、消えたのか。
そんな単純なことすらわからなくなってきた時に。
不意にドアがノックされた。
ノックされたことがわかっても、それが何を意味しているのか、それに対してどういうアクションを起こせばいいのか、わからなかった。
そんなことすらわからなくなるくらい、脳味噌が動いていなかった。
ボクが何も反応しないからだろう。ノックが何回か繰り返されて。
その後、恐る恐るドアノブが回された。
もともと鍵をかけるという習慣がない家なので、いつものように鍵をかけるという事をしていなかったから。
ドアはゆっくりと開けられる。
枕に顔を押し付けたまま、それでも時折ドアの方に視線を向けて、誰なのかを確認しようとする。
誰が入って来ようがどうでもいいのに。誰だろうが同じなのに。
人間って、なんでこんなどうでもいい事をしちゃうんだろう。
泣きすぎてぼおーっとした頭でそんな取り留めもないことを考えて、ドアを見ていたら、ゆっくりゆっくり開いたドアから入ってきたのは、美影ちゃんだった。
さっきは帰宅したばかりだったから、バッチリメイクに、真っ赤なタイトスカートに黒いロングカーディガンで、真っ直ぐな黒髪は艶やかにおろしていた状態だったけど。
今はシャワーを浴びたのか、すっぴんで、いつも来ているピンクのもこもこのパジャマで、髪は二つにわけて跡がつかないヘアゴムで緩く結んでいる。
もう泣いてはいなかったけれども、いつも元気な美影ちゃんからは想像もできないくらい、おどおどとした態度だった。
ゆっくりと部屋に入ってくると、ボクがベットにいることを確認して、そっと・・・ドアを閉じた。
「薫・・・話せる?いい?」
美影ちゃんがそんな言葉を言うことが、信じられなかった。
いつもだったら「いい?」なんて確認することなく、自分が言いたいことをひたすら喋りまくってくるのに、こんな風に気を使ってくるなんて思ってもいなかった。
まあ・・・そうか・・・。
美影ちゃんがそんな風にしなきゃいけないくらい、ボクがおかしくなったんだ。
ボクがおかしいからだ。
ボクはベットから起き上がって、こぼれる涙を両手で擦って拭いて、軽く自分の頬を叩いた。
ちゃんと美影ちゃんと話さなきゃ。謝らなきゃ。ただの八つ当たりだったと謝らなきゃ。
ボクが足を床に下ろしてきちんと座ると、美影ちゃんがゆっくりと隣に座った。
軽く体が傾いて、一瞬だけ美影ちゃの体温を肩に感じて。
離れた。
謝らなきゃ・・・さっきはひどい事いっちゃったから・・・謝らなきゃ。
そう思ったボクは、美影ちゃんを見つめながら、その美しい横顔を見つめながら口を開こうとしたら、
「わたしね。薫になりたいってずっと思ってるの」
と美影ちゃんが正面の壁を見つめたままで言った。
「え・・・?」
言ってる意味がわからなくて首を傾げた時に、美影ちゃんが首をひねってボクを見つめた。
黒曜の瞳に楽しんでいるかのような、心が浮き立っているかのような煌めきを漂わせている。
「だって・・・薫は可愛いんだもの。顔が可愛いのは当たり前だけど、性格も素直で純粋で、人から好かれて。すごく羨ましくて、ずっと、薫になりたいなって思ってた。わたしが持ってない、守ってあげたくなる可愛さがある。わたしはいつもいつも気が強いから、男みたいとか、薫が女なら良かったとか言われ続けた。薫みたいになりたいって。薫みたいに可愛くなりたい。みんなに優しくて温かい、薫みたいな素敵な人になりたいって。ずっと羨ましかった。」
「そんなの・・・ボクだって!ボクだって美影ちゃんになりたいって思ってるよ」
「そうなの?」
「そうだよ!ボクのほうが美影ちゃんになりたかった。明るくて元気で、周りの人を笑顔にできる、美影ちゃんになりたかった。みんなに好かれてる美影ちゃんになりたかった。みんな美影ちゃんと一緒にいると楽しそうで。ボクは全然話し下手だし、笑わせることもできないから、暗くて、ほんとに・・・美影ちゃんみたいに明るくなりたいって、ずうっと思ってた・・・」
「薫は、今のままで十分よ?わたしなんか全然ダメよ?」
想定外だというように美影ちゃんがキョトンと首を傾げる。
本当に本気でそう思っているみたいで、心の底からびっくりしたように、大きな瞳を更に見開いている。
ボクはボクで、美影ちゃんがボクになりたいなんて褒めちぎるから、そんな風に思われていたなんて想定すらしていなくて、ものすっっごくびっくりして、思いっきり自虐してしまった。
心の中で思っているだけで、言葉にして誰かに言うつもりのなかった、ボクの本当の本音。
まあ・・・でも・・・言った相手が美影ちゃんだから、いいか・・・。
ボク達は全てを半分こした双子だから。
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