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第6話
「俺の身のふりは、俺が決める。……確かに売られて自由のない身だが、借金をどう返済していくかは俺の裁量だ」
「し、しかし……わかっているんですか。ここがどういう場所なのか。なにをして金銭を得る店なのか」
とりすましていた秋成の表情が、徐々に驚いたものに変わっていく。
「わかってる。男女のように床を一つにするのだろう。俺にだってそれぐらいはできる。……お前も俺をどうにかしたいのなら、金を払うことだ」
「……戯れにもほどがあります、志乃様」
押し殺したような低い声に、フンと志乃は鼻で嗤った。
「お前が客にならないのなら、他の客をとるまでだ。たくさん客をとって稼いで、父上も藤条の家も、俺が自分でなんとかしてみせる!」
部屋を出ていこうとすると、国領が立ち上がる。腕をとろうとした左手を、振り払った。
「触るな! お前のほどこしなど絶対に受けない!」
一喝すると、国領は愕然とした顔になる。
おそらくこの男の中で、志乃は素直に言いなりになる、小さな子供時代のままだったのだろう。
けれどあの頃とはもう違う。たとえ家の事情で身体を売り買いされても、心までは売らない。それが志乃に残された、最後の自尊心だ。
きっ、と睨むと国領は、唇を真一文字に引き結んでいた。目の光がさきほどまでと違うことに、志乃は気がつく。
「……俺が買わねば、他のものに身を任せると……?」
「当然だ。商売だからな」
きっぱりとうなずくと、しばらく国領は顔を背け、なにごとか考えているようだった。
なにを考えているのかわからず、志乃は苛立って障子に手をかける。
「他の客をとる。……お前はさっさと帰れ。二度と俺の前に姿を見せるな」
つぶやくと、ふいに背後から肩をつかまれた。
ぐいと引き寄せられるようにして、驚いた志乃がもがくが引き離すことができず、二人は布団の上にもつれるようにして倒れこむ。
腹に力を入れて起き上がろうとしたが、その肩を秋成に押さえつけられた。
「あ……秋成」
驚愕して、志乃は至近距離で秋成の瞳を見つめる。
口ではああ言ったものの、実際には秋成が自分と寝るわけがない、と心の中で信じこんでいたからだ。
秋成の態度も表情も、慇懃無礼だった先刻までと一変している。
「本気でおっしゃっているんですよね、志乃様」
「……あ、ああ」
弱々しくうなずくと、秋成の黒々とした瞳がぎらりと物騒に光った。
「それなら、俺があなたを買う。金を払えば、文句はないですよね」
志乃は信じられないものを見た心持で、大きく目を瞠った。
「正気か、秋成」
「はい。あなたが望んだことでしょう、志乃様」
言った瞬間、両肩を押さえつけていた秋成の指に、食いこむほどの力が入る。
「いっ……」
痛みに顔をしかめつつ、かつて見たこともないような秋成の切迫した表情に、本能的に志乃は凍りつきそうな恐怖を感じた。
「痛かったですか。でもあなたの身体は今、俺のものだ」
しゅ、という音がして、襦袢の紐が解かれる。
「……っ」
はらりと前を肌蹴られると、身体の中央が首から足の先まで素肌が晒される。
痛いほどの視線を感じて、羞恥に思わず志乃は息を飲んだ。
ゆっくりと吐息が近づいてきて、皮膚に熱を感じる。
「あ、やっ、やめ……っ!」
秋成の唇が、首筋に押しつけられたのだ。
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