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第7話
必死に固めたはずの決意は、すでに脆くも崩れかけている。男同士の性の営みなど、おぼろげにしか見当がつかない。
まさに今、自分が男に抱かれると思うと、急激に恐怖が湧き上がってきた。
鎖骨に舌を這わせながら足の間に右手が入り込んできて、なにをされるか悟った志乃は悲鳴を上げた。
「さっ、触るな! お前なんか大っ嫌いだ、離せっ!」
「……売られた身で、客の選り好みができる立場だとお思いですか? 色子のあなたに、そんなことを言う資格はない!」
すっかり頭に血が上っていたが、秋成に叩きつけられた罵声に志乃は殴りつけられたほどの打撃を受けた。
自分だって暴言を吐いたけれど、そこには謝罪して欲しいと願う気持ちもあったのだ。
それなのに秋成は謝罪もなく裏切ったことを肯定し、本当に金で志乃を買い、犯そうというのか。
志乃の知っている秋成は、いつだって志乃の味方でいてくれたのに。
一緒に過ごした期間は、志乃にとっては今でも大切な忘れがたい記憶だ。
秋成にとってはそんなものはどうでもよく、自分を好きに弄る気でいる。
なぜこんなことになってしまったのか。どうしてよりによって最初の客が秋成なのか。
悔しくて苦しくて、もう言い返す言葉さえ出てこない。
皮膚を濡れた熱い舌が這う感触に、背筋がざわつく。
男が男を抱くなど、これまで想像したこともない。まして自分が性欲の対象になるなど論外だ。この期に及んでさえ、信じられない。
「どうして? なんで……!」
なぜこんなひどいことをするのかと聞いてみても、秋成は答えてくれない。
荒々しく素肌をまさぐる大きな手に、志乃は精一杯の抵抗をする。
けれど、ここ数日ほとんど眠れておらず、緊張と疲労の末に半纏の男たちにも散々に抗ったため、体力はもうほとんど残されていなかった。
大きく足を広げられ、秋成はその間に身体を入れてくる。
「いやだっ、離せ……」
あきらめと絶望感に、声も段々にか細くなっていく。乱暴に身体をまさぐられるが、怒りと恐怖のほうが勝って快楽など感じない。
しかし直接性器を握りこまれて擦られると、意識とは無関係に下腹部に血が集まっていく。強過ぎる刺激に、志乃は背を反らせた。
「あっ、……あっ」
ぶるぶると震える指で、緋色の綿布団を必死につかむが、そんなことでとても耐えられる刺激ではない。
「はっ……あ、ああ」
擦り上げられ、先端を指で弄られると、自身がぬるついているのが志乃にもわかる。
強引に追い詰められて息が上がり、眦に涙が浮かんだ。
「もう、離し、て、……出るっ、出……ぅあっ!」
腰が痙攣するように震え、志乃のものは秋成の手の中で弾けてしまった。
志乃は肩で息をしながらも、弱々しく身体をよじって秋成から顔を背け、緋色の布団に頬を押しつける。
秋成の手の中でいかされてしまった恥ずかしさと屈辱で、消えてなくなってしまいたい。
「威勢のわりに随分と、こらえ性のない。……そんなによかったですか、俺の指が」
追い討ちをかけるような国領の言葉に、わっと泣き出してしまいそうになるのを必死に我慢した。
けれど、まだこれで終わりではないのだった。
秋成は力の抜けた腰を軽々と引き寄せるとうつ伏せにさせ、志乃のもので濡れた指を尻に沿わせてくる。思わぬ場所への刺激に、放心状態だった志乃は我に返る。
「や……いやだぁっ!」
性急に秋成は、志乃の身体を開こうとする。窄まった粘膜をこじ開けられ、体内に指が差し込まれる感覚に、志乃は必死で逃れようともがく。
「いや、いや……あ、あ、あっ」
「おとなしくなさい。金の分、楽しませるのがあなたの務めだ」
嘲笑うような声に、志乃の心は折れそうになる。
「国、領……どうして、こんな」
「どうしてもこうしてもない。俺は客で、志乃様は商品。それだけのことだ」
冷たい言葉に、とうとう涙が溢れてきた。うつ伏せのため、泣き顔を見られないことだけがせめてもの救いだ。
「許さない、絶対……お前なんか、大嫌いだ」
わななく唇から、恨みごとが漏れる。すると国領は、なぜか苦しげな、呻くような声で囁く。
「……そう。そうやって、いくらでも恨んでください。でも、今のあなたにはなにもできない。俺の髪一筋傷つけることさえ、なにひとつ無理なんですよ」
そのとおりだった。悔しさにどんなに歯噛みしても、反論のしようがない。
「っあ!」
体内で指が折り曲げられて、内壁を抉られる感覚に志乃は声を上げる。
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