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第27話

挿入された衝撃に、張り詰めていたものが弾け、その滴りが志乃の性器から零れ落ちる。 達したと同時に刺し貫かれるあまりに激しい快感に逃げようとする身体は、背後からしっかりと捕まえられていた。 「はぁっ、あっ、ん、んっ」  客の動きはゆっくりだったが、その分、快楽も深い。 抉るように腰を使われてすぐにまた志乃の性器は昂ぶりを示してしまう。  そこに指が絡められ、内と外を責められて、志乃はむせび泣きながら嬌声を上げた。 「ああっ、やあああっ!」  再び志乃が達して間もなく、体内に熱い飛沫を感じる。  快楽の濁流に飲みこまれたように志乃はしばらく夢心地で、客に身体を拭かれている間もされるがままに身を任せていた。 いまだ呼吸も整わず、せいせいと肩で息をついている。  ただでさえ陶酔している状態で朦朧としているのに、目隠しをされているので現実との境目があやふやになっている感じなのだ。  しばらくして、酔客が障子の向こうの廊下を歩きながら大きな笑い声をたてたことで、やっと志乃は我に返る。  そうして耳を澄ますと、客は服を着ているらしかった。  志乃の身体からはすでに汗が引いていて、きっちりと緋襦袢の前が合わされている。  と、いつもの香りに志乃は気がついた。 着替えで客の衣類が動いたせいで、香ってきたのに違いない。 「……あの」  なんの香りなのか聞こうと思って、志乃は考え直した。 もしかしたらこの客は、こんなに印象が強く残るほど志乃がその香りに興味を持っていると気づいていないのでは、と思い至ったからだ。  大抵の場合、香りはとても薄く、かすかにしか香らない。  親戚の令嬢たちが話しているのを聞いたことがあるが、香水はずっと身につけていると自身の香りに疎くなるという。 それに、部屋をとる前に風呂を使う客も多いから、自分では香りがすっかり落ちていると思っているということもある。 夕凪は見た目に自信がないんだろう、などと言っていたが、著名な人間という可能性もあった。 もしくは、単に変わりものということも考えられるが、いずれにしてもこの客はなんらかの理由で正体を知られたくないのだろうし、尋ねたらもうその香りをまとうのをやめてしまうかもしれない。  客は今夜も、一言も声を出していない。最中も、息遣いさえ潜めているのか、ほとんど聞こえなかった。  だがそれは、志乃にまったく余裕がなく、廊下の物音も何一つ耳に入ってこない状態だったから当然かもしれないが。  上半身を起こすと、腰にじんと甘い痺れが走った。 かすかに、体内にまだなにか入っているような違和感がある。  やがて客が立ち上がり、移動する気配があった。頬を両手で挟まれて軽く唇が重ねられ、離れていく。 帰るのだなと思うと、なんとなく物悲しい。  けれどやはりまだ、朝までずっと一緒にいて欲しいとは言えずにいた。 なぜなら志乃は思っていたからだ。  きっとその望みを受け入れてもらえるのは、目隠しをしなくとも会ってくれるようになってからだろう、と。

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