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第43話

嫌でたまらないし、いくら金のためとはいえ、色恋の真似事などとてもできそうにない。だが実際は、こうしたことをするのが遊郭では普通なのだろう。  そんなことを考えているとは思いもしないであろう男は、緋襦袢をすべて脱がせると、志乃の裸体を観察するように隅々まで眺めた。 「手も足もすんなりと長くて、綺麗な裸だ」  無骨な指が肌の上をくまなく滑り始め、手触りを楽しんでいる。 「他の色子たちに話を聞いたが、お前は華族の出だというではないか。まさに掘り出し物だな。肌も絹のような触り心地だ。それに、もうこうして淫らに誘ってきている」  胸を何度も手のひらがいききするうちに、秋成によって過敏にされた乳首はすでに固くしこってしまっていた。  志乃は顔を赤くして天井を見つめ、気持ち悪さに耐える。 それと同時に、ひっきりなしに頭の中に、腹の立つ男の姿が浮かんで消えない。  目を閉じて、相手が秋成だと思えば我慢できるだろうか。 ふとそんなことを考えてしまい、なんでそんなことを考えるのかと自分を恥じた。 男は存分に志乃の肌を堪能してから、ごそごそと鞄を探り始め、白く細い紐を何本も寄り合わせて綯った縄を取り出した。  怪訝そうに見つめる志乃をうつ伏せに寝かせると、両手を後ろ手に縛り始める。 驚いた志乃が慌てて身をよじると、客は猫なで声で宥めた。 「案ずるな、なにも怖いことはせんよ。この縄も肌に傷ができないよう、特性の絹で作らせている。私に任せていい子にしていなさい」  けれど、縄は首から胸にも回されてしまい、志乃の焦燥感は強くなる。 「こんなこと、しないで下さい。逃げたりしません」  か細い声で訴えたが、男は聞こえていないというかのように、縄の一部を引っ張って身体を仰向けにし、今度は志乃の膝に縄をかけ、肘の部分と繋いで括った。  無防備に大きく足を開かれた状態で身動きがまったくできなくなり、志乃は不安と恐怖を抑えることができない。 「解いて下さい! 抵抗しません、本当……んんっ」  菅野は軽く志乃の鼻をつまみ、赤いカットガラスの小瓶から口に液体を流しこんできた。  口の中が焼けるように甘く、苦い。 鼻腔を塞がれているため吐き出すこともままならずに飲み下すと、男は満足そうに小瓶の蓋を閉めた。 「な……なに……」  想像もしていなかった展開に、志乃はもう怯えきっていた。 男は服を脱ぎ始め、下着一枚の姿になる。 「飲むのは初めてか? 色街の界隈で出回っている甘天露という媚薬だ。身体が糖蜜着けのようにとろとろになってしまうらしいぞ」  男はくっくっと喉の奥で笑う。 「あ……」  なんだか身体がおかしい。 そう意識した瞬間、ぐうっと下腹からうねるように熱が押し寄せてくる。 首の頚動脈から、どくんどくんと脈打つ音が聞こえるほどに、動悸が激しくなってきた。  顔が火照って、全身が汗ばんでくる。 「そら、もう白い肌が桜色に染まってきているぞ。綺麗なものだ」  男は舌なめずりをするように、恥ずかしい格好に縛り上げられた、志乃の裸体を見下ろしている。 「世が世なら近寄れもしないものを、こうして手折り慰みものにする楽しみが得られるとは。お家を潰した貴方の父上に感謝しなくてはな」  身体の変調に怯え竦んでいた志乃だったが、その言葉に一瞬本来の自分を取り戻す。 「貴様、父上を愚弄するのか! 離せ!」 「おお、自尊心の強い華族様でおられる。これは泣かせるのが楽しみだ」 「触るな、下衆!」  男は苦笑する。 「さすがに下衆と言われては興ざめだ。その尊いお口は塞いでおこう」  言って、鞄から取り出したのは猿轡だった。 真っ青になって志乃は逃れようとするが、全身を拘束されていてはどうにもならない。  声を出す自由さえも奪うと、ますます男は満足そうに笑った。 「そろそろ甘天露が骨の髄まで染み渡ってきたころだろう。……あれは最中に刃物で切りつけられても、痛みを感じないまま達するほどの妙薬という。悶え狂う痴態を早く見せておくれ」  ふざけるなと内心で罵倒するものの、どんどん志乃の息は上がってきていた。  それに触れられてもいないのに、自分のものが頭をもたげてきているのがわかる。 少しでも気を散らそうと天井の格子の数をかぞえるが、とても抑えきれるものではない。 「ん……ん、んんっ」  今や身をよじると、そのかすかな振動さえも肌は快感と受け取り始めている。 その様をじっと観察されて、志乃は屈辱感と羞恥に身を焦がした。 「かなり回ってきたようだな。だがまだまだ、お楽しみはこれからだ。甘天露は飲んでもいいが、こういうこともできる」  男はさらに鞄を探り、今度は筆を取り出してきた。 それを先刻の瓶に浸すと筆先にたっぷりと液体を含ませる。 「……っ、んぅ……っ!」  志乃の勃ち上がりかけたものに、甘い媚薬が塗りつけられていく。

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