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第44話
最初は液体の冷たさに性器がびくっと反応したが、すぐにそれは別の、ずくんずくんという激しい疼きにとって変わった。
滴った液体は下の柔らかな袋まで濡らし、その部分までも熱を持つ。
筆先は、すっかり勃ちきった性器の根元から先端までを、何度もゆっくりといききする。
志乃はきつく背を反らし、見開いた瞳からは耐え切れずに涙が転げ落ちた。
しつこく先端を筆で弄られると、ひくひくと腰が痙攣する。
「本当は、中にたっぷり塗りつけてやりたいんだが」
男は左手の中指を、自分の口に含む。
「入れたときに私のものまで媚薬まみれになってしまうからね」
「んぅっ!」
ぐっ、と唾液で濡らされた中指が、志乃の中に押し入ってきた。薬のせいか、痛みはほとんど感じない。
だが男は、わずかに顔を曇らせる。
「これは、思っていたよりずっと狭いな。もっと柔らかで緩いほうが長く楽しめる。……少し広げるとするか」
指が抜き取られても、過敏になった内壁がざわざわと蠢いて、志乃は切なげに眉を寄せた。全身が熱くて、息が苦しい。
しかし男が見せつけるように持ち上げた物を見て、志乃は恐怖に凍りつく。
それは、ぞっとするほどの大きさの張り型だった。
しかも通常の陰茎の形ではなく、ぼこぼこと気味の悪い突起が無数についている。
「どうだ、早く欲しいか。高価な黒檀製だぞ。これを埋めこんだ後になら、具合よく使えるだろう」
こんな大きなものが入るわけはない。
それに、不気味な黒い造形の異物を入れられると想像するだけで身の毛がよだつ。
「んぅ、んんっ!」
志乃は恐怖に目を見開き、全身をガタガタ震わせるしか成すすべがない。
だが、そのとき。
ふいに客が廊下に目を向けた。
障子の外から人の怒鳴る声が聞こえ、それが段々と近づいてくることに、薬と恐怖で取り乱していた志乃もぼんやりと気がつく。
『───そんな無茶を言われましても』
『無茶とはなんだ、約束が違うだろう!』
どかどかと乱暴な足音がどんどん大きくなり、バシン! と叩きつけるような激しさで、障子が開けられた。
「うわあ」
室内に飛び込んできた荒々しい足音に、客は情けない驚きの声を上げ、中腰になって後ずさる。
「なんだ君たち、なぜ勝手に入って……あっ!」
入ってきた男の顔を見て、男は顔を引きつらせた。
志乃も愕然としてその姿に釘づけになる。
猛獣も逃げ出しそうな形相で乱入してきたのは、秋成だったのだ。
仁王立ちしているその背後から、見慣れた黒い姿がとりなすように割って入る。
「お取り込み中、誠に申し訳ないんですがね。こちらの旦那がどうしても、馴染みの銀花に会わせろとおっしゃるもんで……」
夕凪はあまり悪いとは思っていなさそうな口調と顔で言ったが、男は慌てて服を見につけ始めた。
「なんの真似だ、これは! 野暮とはそちらではないか! 会の折、馴染みなら馴染みとおっしゃればよろしいものを。わ、私はなにも店のやり方には反しておらんぞ。そうだろう、夕凪君」
「まったくで。確かに見世に出さねぇ約束はしましたが、見世以外で客が銀花を見初めて指名しちまったもんはしかたねぇでしょう」
口々に文句を言われても、秋成はぴくりとも表情を崩さない。
ただ、悪鬼のように志乃のあられもない姿を睨みつけているだけだ。
志乃はその射抜くように鋭い視線が、淫らな痴態を晒している自分に向いていることが恐ろしく、辛くてならない。
きっとどうしようもない淫らな色子だと、以前にも増して軽蔑しているのだろう。
客のほうは頭が冷えてきたのか、秋成の様子によほど怯えたのか、仕事の上での自分の立場に思い至ったらしい。
「ま、まぁ、今回のことは忘れよう。……いやいや、その、これは私事の場であるのだから公私混同せず、仕事の際には忘れていただければと……」
年齢は父と子ほども離れているのだろうが、仕事の上で絶対的に秋成が上の立場らしい。男は卑屈な態度で恨めしそうに志乃と夕凪とをちらちら見る。
しかし男を庇うかと思われた夕凪の左目がふいにすっと細められ、冷たく光った。
視線の先に気づいた客が慌てて手を伸ばす間もなく、俊敏な動きで腰をかがめ、畳の上にあった赤いガラス瓶を拾い上げる。
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