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第45話

「お客さん、困りますぜ。こんな品のねぇもんを持ちこまれちゃ」 「そ、それは持病の薬で」  とりつくろう客に、夕凪はにべもなく告げる。 「この道の玄人を誤魔化そうなんざ、いい度胸じゃねぇか。わかっちゃいるだろうが、楼の規則を破った輩は金輪際出入り禁止、客とは認められねぇ」 「待ってくれ。その、つまり、ここを紹介してくれた方への面目が」 「その面目とやら、これ以上叩き潰されたくなければ、失せろ」  秋成が地を這うような声でつぶやくと、蒼白になった男は油だらけの手のまま、かろうじて衣類を身にまとい、転がるように廊下へ出た。  夕凪はいつもの皮肉そうな笑いを浮かべてそれを見送ってから、秋成に片側だけの目を向ける。 「別の客と逢瀬中の色子の部屋に乗りこんだ旦那も、規則破りじゃありますがね。まぁ、日頃いろいろお世話になっておりやすし。あんな性質の悪いのを始末できたってことで、貸し借りなしにしときやしょう」 「なにが貸し借りなしだ。今度別の客を近づけたら、楼ごと潰してやるぞ」  秋成は獰猛に吐き捨てたが、夕凪は極めて機嫌のよさそうな声で言う。 「承知しやした。では一件落着、ごゆっくり」  身を翻すとさっさと障子を閉め、部屋を出ていった。    志乃には、なぜこんなことになっているのか事情がまったくわからない。怯え、緊張してはいても、薬のせいで性器は痛いほどに張り詰めたままだ。  男が去ったといっても、安心できる心境にはとてもなれない。  緊縛されて足の間を油で濡らし、陰茎の先端から透明な雫を滴らせている姿を険しい目で見下ろす秋成が、恐ろしくてたまらなかった。 「……指名されれは、誰とでも寝るんですか。これまでもそうされてきたと?」  まだ猿轡を噛まされたままで、志乃は言葉が話せない。けれど話せたとしても、簡単に返事のできることではなかった。  できれば一生、客などとりたいわけがない。 だが、一人前の色子になってここで生きていくためには、客をとるのを拒めないではないか。 父の療養のための金だって工面しなくてはならないのだから。  そのため首を振って否定するのも違うように思えてとまどう志乃に、秋成は圧し掛かってくる。 「こんなに濡らして……」  秋成の口調には、怒りが潜んでいる。 志乃は震えながら、ただその目をじっと見返すしかない。 「あの男に、どこまで触れさせたんです」

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