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第51話
志乃の言葉を聞いた秋成の身体が、ぎくりと驚いたように硬直した。
胸から伝わる鼓動がどんどん大きくなっていき、もうそれがどちらの心音なのかもわからない。
「俺は、一度聞いたことは絶対に忘れない。誤魔化しも撤回もさせません。……本気にしていいんですね」
熱のこもった声に、志乃はうなずいた。
「十年前、秋成が急にいなくなったとき……お前には想像もできないぐらい、悲しかった。会いたくて会いたくて、毎晩お前の夢ばかり見た」
「笑わせないでください」
秋成は毟り取るように自らの上着を脱ぎ、志乃の肩から緋襦袢を落とす。
「志乃様こそ、想像もできないに決まっている。俺がどれだけあなたに狂わされているか」
「俺の気持ちは、そんなものじゃない。辛かったんだ、本当に毎日……」
「言ったでしょう、志乃様。俺はあのころからずっと」
「でも俺も」
「志乃様」
なおも言い募ろうとすると秋成は、幼いころの楽しい日々ですら見せたことのない、輝くように晴々とした、幸せそうな笑顔を志乃に向けた。
「こんな言い合いなら、いくらでもしたいものです」
志乃もつられて、思わず笑う。だが同時に、止まっていた涙が堰を切ったように溢れ出した。
「ずっと怖かった。……お前に嫌われてると思って、弄ばれているんだと思って」
「……謝ります。俺が全部、悪かったんです。だからもう泣かないでください、志乃様」
言いながら秋成は、志乃をかき抱く。
「あなたには俺がいます。もうなにも怖がったり、心配したりしなくていい」
頬に、額に、秋成の唇がそっと落とされた。
「秋成……秋成、本当なんだな? 信じていいんだな? 本当にお前は俺のこと……」
「どうすれば信じてくれるのか教えてください、志乃様。俺はそのためになら、なんだってやってみせます」
言うと同時に、秋成は深くくちづけてくる。
志乃はその背に、しっかりと手を回した。
固く抱き締め合いながら、互いの舌を求め、角度を変えては唇を重ね続ける。
最初に無理強いされたときとも、目隠しをされていたときとも、今までされたどのくちづけとも違った。
ただ唇と唇が触れているだけなのに、例えようもなく気持ちがいい。
やがて秋成が一度身体を離したとき、志乃はたまらない寂しさを感じた。
ねだるように両手を広げると、秋成はシャツを脱ぎ、もう一度覆いかぶさってくる。
「あっ……は、あ……」
秋成の舌が、首筋を滑り、鎖骨を吸う。媚薬が抜けきっていないこともあって、志乃の身体は過敏なまでに反応を返した。
「あぅ、や……っ!」
先刻も散々に刺激された乳首を舐め上げられて、痛みに近い快感が走る。
「ここでこんなに感じるのも、薬のせいですか?」
「だって……秋成が、したから……っ」
自分でも、こんな部分で快感を得られるなど思ってもみなかった。こうなってしまったのは、目隠しをされてずっと愛撫をされていたせいだ。
「こんなに固く、赤くして……本当に可愛い、志乃様は」
また唇に含まれて、志乃は真っ赤になってしまう。恥ずかしいのもあるが、以前のような屈辱的な羞恥とは違う。褒められて、照れくさくてたまらない感覚に近い。
「はっ、秋成……っ、ああ」
秋成の手が、下腹部に伸ばされる。そこは二度も射精したとは思えないほどにかちかちになってしまっていた。
「そこ、にも、薬……濡れらたから、っあ!」
言い訳をすると先端を親指で擦られて、志乃の腰がびくびくと跳ねる。
「そんなことをさせたんですか……許せませんね」
ちっとも怒ってはいない声だったが、秋成は焦らすようにゆるゆると志乃の性器を擦り、濡れた先端に指の腹を這わせる。
「もう二度と、誰にもお前のこんな姿を見せないと、約束していただけますね?」
「しない……っ、もう、させないっ」
また別の客に指名されたそのときは、舌を噛もうと志乃は心に決める。
指の動きに翻弄されながらも震える声で志乃は言うが、秋成はまだ解放してくれない。
「それだけでは駄目です。こっちもこんなにぬるぬるにさせて」
油のたっぷり塗りこめられた志乃の後ろに、秋成はもう片方の手をあてがう。
「ひ、ああ……っ!」
長い中指が、ぬるっと入ってくる。
前と後ろを同時に弄られて、志乃はあられもない声を上げ、絹布団の上で身悶えた。
「やぁっ! い、い……っ、あ、ああっ」
「もう、大丈夫ですね……? 入れますよ……」
興奮を押し殺したような低い秋成の声と、ベルトをはずす音の後、志乃の両足が抱え上げられた。
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