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安野達が身を屈めて何かをしている最中、気だるげな声で訊いた。
「小口! あなたはまたサボっていたの!」
「サボっていたなんて心外な。わたしは部屋の掃除⋯⋯と味見という大変名誉なお仕事をしていたのですよ」
「またそんな言い訳をして!」
部屋の掃除も味見も立派なサボりである。のは、安野もとっくのとうに気づかれていて、声を上げて怒っていた。
またそんなに怒りますと皺が出来ますと、聞く気のない態度でいた。
いつまで言っているのかなと上の空でいた時、安野達の足元に眉を寄せて、小刻みに震えている子どもがいることに気づいた。
「そのお子さまは?」
「え? ああ、このご子息は姫宮様のお子様なのですよ」
「姫宮さまの⋯⋯」
いつもであれば誰だっけと口にするが、今回ばかりはそんなことを言えない。言えるはずがなかった。
控えめに笑い、ただ仕事としてそうしているだけで、依頼人である御月堂の子どもが無事であれば、自分のことは何されてもいいというような人。
そう。だから、自分のお腹の中で子どもの鼓動を感じ取れないと思ったからなのだろう、自身の身を挺して、襲撃してきた御月堂の妻だという相手があの細い首を──⋯⋯。
さすがの小口もあのような残酷な光景を目の前で見せつけられて、怖いという感情が湧き、笑えるほど足が竦んでしまい、動けなくなった。
その後、幸い命に別状はなかったものの、自身がすべき仕事──御月堂夫妻の子どもを死なせてしまったことを悔やみ、逃げるように去ってしまった姫宮のことは仕方ないことだ。
そして、全てが全て彼の責任ではない。
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