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「姫宮さまにお子さんがいらっしゃったのですね」
「代理出産する条件の一つとして、出産経験なのですから、いるのは当たり前なのですが⋯⋯」
安野が言いたいのはそういうことではないのかもしれない。
ちらり、と小さな手が自身の服を掴んで誰も見ないように俯いている男の子を見ていた。
仕事している時、姫宮の口から子どもの話をしていなかったことに不思議に思っているのだろう。
何かと子どもの話をすると思われるが、元々自分のことも話さない人だ。
だから、不思議ではないが、どこか違和感がある。
恐らく安野はそう言いたいのだろう。
「そういえば、御月堂様はお世話をしておいてくれと言ってましたね」
「あの方らしいご命令ですが、もしかしたら姫宮様と一緒にいて、けれどもすぐに来られない状況なのかもしれないですね」
「どんな状況かは分かりかねますが、姫宮様がひとまずご無事なようですが、やはりお顔を見るまでは気が気でならない⋯⋯!」
今にも飛び出しそうな勢いでそわそわしている安野に、「⋯⋯そのような態度、この子の前で見せてはなりませんよ」と指摘され、ハッとした安野は「そうよね」と表情を改めた。
「さぁ、いつまでも立っておられましたらお疲れになるでしょう。お入りになってごゆっくりとしてください。とはいえども、初めてお会いしたものですから戸惑うかと思いますが、出来る限りのことをしてあげますから、遠慮なく言ってくださいね」
「このようなことあなたのお母様にも言ったのですよ。懐かしい」としゃがんだ安野は親しみを込めた笑みを見せるが、俯いたままビクッと肩を上げて、さらに指に力を入れていた。
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