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第8話

   ※   ※   ※  あの決意の日から一週間。  リビングで誕生日を祝ってもらったあと、俺は自分の部屋に戻った。  パジャマの上からパーカーを羽織って、ベッドに座り、スマートホンを持った。  マッチングアプリをダウンロードする。ダウンロードの進捗を表すタスクバーを見ながら、心臓が鼓動を高めていく。  これは期待だろうか。それとももう引き返せないぞ、という恐怖だろうか。  緊張感が高まる。  途中でスマートホンの着信音が鳴った。俺はビクっとなった。  新規メッセージの着信を知らせる窓がひらいた。 「雅人:お誕生日おめでとうございます」  雅人からのメッセージだ。  メッセージを送ってきてくれたことは素直に嬉しい。でも――  ご・ざ・い・ま・すう?  そんな他人行儀なメッセージいらねーよ。  俺がお前に求めていたのはそういうのじゃないんだよ  俺は意固地になって雅人からの着信を無視し、マッチングアプリのインストールを待つことにした。  雅人が忙しい受験勉強の最中に、俺の誕生日を覚えていてくれたのは嬉しかった。でも、このタイトルで予測がつくように、たぶん内容は生真面目な定型文だ。  わかっているのに――。  俺は迷ったあげく、結局無視できなくなって、メッセージ画面を開いてしまった。  雅人からのメッセージ全文を読む。 『お誕生日おめでとうございます。お互いとうとう十八歳だな。充実した年になるといいですね』  ほらね。出木杉君かよ。  なんともいえない脱力感が俺を襲う。  俺が期待するような内容なわけないんだよ。雅人は俺の気持ちなんて全然わかってないんだから。  でもメッセージを送ってくれた事実は単純に嬉しい。  相反する気持ちの板挟みになる。  物悲しい気持ちになりながら、俺の指は反射的に動き、返信を入力する窓を開いた。  しかし、点滅するカーソルをみつめたまま指が止まる。  なにを伝えればいいんだろう。 『これからも一年間よろしくな』  年賀状かよ。 『これからもいい友達でいてくれ』  いい友達ってなんだよ。どんな関係だよ。俺、嘘つくの下手なんだよ。 『俺はこれから、もっとお前を知りたいんだ。正直なお前の気持ちが知りたいんだよ。俺たちの関係は? 雅人はどうなりたいの?』  これだ。きっとこれが正直な気持ちだ。  でも……怖ええよ。  十二年間一緒にいる相手からこんなの送られたら、執着強すぎて怖いよ。  でも、俺の本性は、その怖くて痛い奴だったみたいだ。  俺はスマートホンをベッドに投げて、突っ伏した。情けなかった。俺はどうしてこんなに不器用で意気地のない人間なんだろう。  一番送りたい言葉はどうしても送れないのだった。

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