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第10話 〜察知〜
〜今〜
「てつや、てつや起きろ」
優しく揺さぶられて、てつやは目を覚ました。
「あれ、俺寝てた?」
居間の真ん中に大の字で寝転ぶ自分を、スーツを脱ぎながら京介が笑って見下ろしている。
「根を詰め過ぎなんじゃないのか?あまり無理すんなよ」
ネクタイを外す京介を見るのは好きだ。
マンション建設の間取りや内装の確認が9部屋分。多少は無理しないと工期に関わってくる事態になっていた。
「今何時」
起き上がりながら時計をみればいいものを、わざわざ聞いてみる。
「9時だな。9時…21時12分」
飯食ってねえなぁ…と立ち上がって冷蔵庫へ向かおうとしたが、目の前のテーブルにツヤツヤ亭の袋。
「弁当買ってきたぞ。一緒に食おう」
パーカーに袖を通し、既にスエットも履いた京介は洗面所へ手を洗いに行き、ついでに冷蔵庫からお茶を持ってきた。
何か夢を見ていた気がする。懐かしい夢。
ああ、寝込んでしまう前に思い出していたからかな…とお茶を注ぐ京介を見てふと思った。
『裏新市街 がなかったら…もしかして俺今、京介とここにいないのかな…』
良くも悪くも色々経験した時代。男 の経験がなかったら…
てつやは立ったまま、座って弁当を出している京介の頬を上から掴み少し上向かせると、覆い被さって逆向きからキスをした。
体勢的に軽いものにはなったが、不意のことに京介の目が開かれる。
「どうした?」
腕を掴んで隣に座らせた。
「なんかあったか?」
「いや…あの頃の夢見てた気がして」
「あの頃って…裏新市街の頃の?」
うん、と頷いて目の前に置かれた弁当を開ける。幕の内弁当だった。
京介にも少々チャラい、茶髪のイケメンが想起された。
「なんでかな…寝る前に自分の髪の色見てちょっとだけ思い出したからかもなんだけどさ」
いただきます、と手を合わせて唐揚げを一口。
「色々あった時期だからな」
京介も手を合わせて唐揚げを箸でとった。
〜〜〜〜戻る〜〜〜〜
携帯が鳴って、うるさいなあとてつやは電話を取った。
「はい…朝っぱらからなn…」
『朝じゃねえよ!もう昼過ぎてるぞ!どこにいんだお前!』
急に怒鳴られて、携帯の時間を見る。
12時43分
「うわああああ!ほんとだ!あれ、まっさんか。え?あ!ごめん、、いや、あの、店で話し合い…あって寝ちゃって…あああ今俺んち?駄菓子屋 行っててすぐ行く!」
ガラケーをぱたんと閉じて、てつやはソッコーでシャワーを浴びてから未だ寝ている丈瑠を蹴り起こした。
「なんだよ〜乱暴すんなよ…」
いつも立ち上がっている真ん中分けがぐしゃぐしゃになっていて、イケメン台無し
「友達来るって昨夜言ったよな。言ったよな!今もう来てるって電話が!起きろよー俺だけでてもいいの?」
「あー、そんなこと言ってたな…ん、ちょっとシャワー浴びる」
「早くしろよー」
服を着ながら、足踏みをしててつやは丈瑠を急かす。
「はいはい、もう待たせてる時点でアウトなんだから落ち着け」
頭をポンと叩いて浴室へ入ってゆく丈瑠の後ろで、
「それでも早く行くのが誠意だろー」
再び足踏みを始めて、速く速くと急かしている。
「ああ、もうわかったから〜落ち着いて〜」
とりあえず身体だけ洗って、髪を湿らせると洗面台で備え付けのヘアワックスをつけ、とりあえずの体裁を整えた。
「よし、行こうか」
ベルトを締めて、パネルで清算をし、2人はホテルを出る。
「タクシーで送るわ。おれも旧市街なんでついで」
「助かるわ」
道に出てタクシーを捕まえ、まずてつやのアパートの住所をつげた。
「なあなあ、俺もオトモダチに会ってもいい?」
「だめ」
「いいじゃん〜銀次くんとかに会いたいよ〜。あとなんだっけ?まっさん?と京介くん。てつやのオトモダチおもしろそうなんだもんよ〜」
「大体遅れたのあんたのせいなんだからな。反省とかそういうのねえのかよ」
「え〜?俺のピーにピーし始めてピーピーなの誰のせい?俺?」
ニヤニヤして丈瑠はシートの上でてつやの手を握る。
「初めての余韻もなしにさ〜急に蹴り起こされた俺って…可哀想じゃね?」
てつやはそこまで言われてちょっとモゴモゴしてしまった。
「やっぱこう言う日の朝はさ、『どうだった?』『うん、ちょっときつかったけど…大丈夫だよ』みたいなの欲しかったな〜」
いや、やめて。運転手さんいるんだし…
「だからオトモダチに会わせてね」
やられた感がすごい…いや…なんと言うか…初めて男と寝た次ぐ日に、その相手と一緒にみんなと会うのはちょっと抵抗がある…
「ん〜〜〜〜顔見るだけだぞ。丈瑠はタクシーから降りんなよ」
「わかった」
ニコニコしていいお返事をした丈瑠の本心は、まだお子様のてつやには解れなかった。
「あ、そこ曲がった、その電信柱のところでいいです」
てつやに言われて運転手さんは、電信柱の脇に車を停めた。
「いいか、通りすがりにちらっと見るだけだからな。車から降りんなよ。あの先の植え込みのとこに駄菓子屋あんだよ。そこにみんないるから。降りんなよ」
お世話様でした、と運転手さんに挨拶しててつやはタクシーを降りる。
駄菓子屋までは10mほど。タクシーが後を走ってきて徐行をしているが、まあそこまでは許そう…
タクシーが脇に来た時に、はよ行け、と手で前に送る仕草をしてみるが、丈瑠は親指を上げるだけでニコニコしているだけだ。
てつやは駄菓子屋の前まで歩いて、
「あ〜ごめんなぁ〜〜わるかったよ〜」
駄菓子屋の前でヤンキー座りしている3人に頭を下げる。
「本当にもう!俺の重大発表があるって言うのにお前!」
銀次がよっと言って立ち上がり、はやく部屋行こうぜと言いかけた時
「こんにちは」
語尾に音符を付けて丈瑠が現れた。
「おまっ!帰れって言った…」
「タクシー待たせてるから挨拶だけだよぉ。初めまして、僕は宮田丈瑠です。てつや…くんのバイト先の大先輩です。みんなの噂はきいてるよー」
「は…?はぁ…いつもてつやがお世話になってます…」
まっさんが軽く頭を下げると、
「ん、君がまっさんかな。イメージ通りだ」
またニコッと笑って握手をする。
「な…なぁちょっと丈瑠…?」
まあまあとてつやを手で押し退けて勝手に挨拶をつづける丈瑠に、てつやは気が気ではない顔でウロウロし始めた。
「そして、君が銀次くん…だよね。髪型決まってるね。俺と一緒だよ。俺もそれできるもん。よろしくね」
と握手。
「そして、君が…京介くん」
なんとなく気に入らねえな、的な顔で同じような目線で立っている京介には少しも屈まずに目を合わせて、
「よろしく」
と殊更ニッコリとして握手もきつめにやってみた。
『おぉ〜これはぁ』
丈瑠の勘が何かを感じる。
「いつもてつやがお世話になっています」
へりくだった挨拶のはずなのだが、どこか不遜な態度で、丈瑠は内心で大笑いしていた。
『あ〜これ…まじで?おもしれ〜。アドバンテージ取っちゃったな〜おれ』
楽しそうな気持ちが顔に出てしまい、
「いえいえこちらこそ、結構てつやにはお世話になってることも多くて〜」
京介の眉がピクッと上がる。
「お前余計なこと言うなよ」
ここでお前が入ってくるということは…って俺思っちゃていいのかな?面白すぎるぜ、ともう耐え切れましぇん状態の丈瑠は
「うんうん、じゃあ俺はここで。一度みんなに会ってみたかっただけなんだ。邪魔してごめんね。店で寝てたのは本当だから許してやって。うちの店長話長いんよ。あ、そうそう」
一度背を向けたが不意に振り向いて
「銀次くん。卒業おめでとう。それじゃ」
「ばっ!言うなって!」
丈瑠はそんなてつやにニヤニヤ笑って、そして軽く手を振ってタクシーへ向かい、出発間際にみんなに手を振って去っていく。
「てつや…なんだあのイケメン…」
「店の先輩だって言ったぞ」
「っていうか卒業おめでとうって…俺に言ったよな?お前そんなことまで」
「流れでさ〜〜」
話はお前の部屋で聞くわ ということになり、てつやは連行されるように部屋へ向かわされた。
が、
「てつや!みんなお前の奢りで菓子食ってたからな。あとで集金いくぞ」
ばあちゃんが言ってきてそこにも『へ〜い』と情けない返事をする。
京介はてつやの後を歩いて気づいたことがあった。
さっきの…なんて言ったかいけすかない奴と、てつやが同じ匂いがする。
それが店の匂いなのか、石鹸の匂いなのかの判別がつかないが、それもなんとなく気に入らない気持ちになっていった。
一方タクシーの中で丈瑠は
『あの京介って奴まじか!てつやしか見えてねえじゃん。おもろ!多分、あれ
…本人もてつやも気づいてないよな…へえ〜…いじるべきか静観すべきか。迷う〜』
面白いものを発見して、楽しそうに帰宅中の丈瑠であった。しかも家は新市街だった。
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