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第11話 〜告白〜
「まあ取り敢えず、おめでとう」
駄菓子屋から持ってきたラムネで、銀次の『卒業』の乾杯をする。
「案外すんなりだったんだな」
イノウエのばーちゃん、ラムネ冷やしすぎ、などとぼやきながらもてつやは銀次に顔を向ける。
「感想は?」
「お前にやけるなよぉ」
銀次も適度に照れていて、ラムネもちょびちょび。
「いやぁ~笹井さんな、前から俺の事見ててくれたんだって。金曜の午後に呼び出したんだけど、お互い告白ごっこみたいになっちって」
デレデレしてラムネの瓶をぐるぐる回しそうになったので、それはまっさんが止めた。
実際話を聞けば、お互い目が合っている回数も多くて、そんなことで意識し合ってたらしい。
「それにしても展開はやくね?」
まっさんの言葉に、今度はクネクネし始め
「そこはさ~ほら、お年頃じゃん?笹井の家は両親共働きで帰り遅いって言うからさあ~~」
「うまく行ったのか?最初から」
思春期4人、他人のエッチに興味津々…だが、4人のうちの1人京介は黙って微妙に微笑みながら話を聞いているだけだった。
「ん~まあ…そう言う動画とか見てたしな。結構痛がらせちゃったけど…なんとか」
てつやも自分の初めてを思い起こしていた。つまり昨夜だ。つまり受け入れ側でということ。
確かに痛えし、圧迫感がな…と口には出せずにうんうん、と銀次の話を聞いている。
「まあよかったじゃん。彼女もできて、すっきりもして。受験まっしぐらだな」
銀次の背中をバンバン叩いて、まっさんが嫌なことを言う。
「俺の薔薇色の今後が灰色になるようなこと言わんでくれよ。まあ俺は専門だから試験はないんだけどな」
「薔薇色ねえ…俺は別れたから知らん」
まっさんも展開が早い。
「「はぁぁ~?」」
「この間言ってたのもう行動に起こしたのか?さすがまっさんというべきか…」
幸せ絶頂の銀次も呆れてテーブルに肘枕。
「でもまあ、ある意味スッキリしたわ。ちょっとめんどくさいやつだったんでな」
絶対一緒に帰る。寝る前には必ずLINE。朝起きたらおはようLINEとかとか…
「ああ…それはなぁ…」
ちょっと同情の余地はある。
「しかしそんな子が、よく素直に別れたな」
てつやが不思議そうに首を傾げる。大抵そういう子は、これからストーカーっぽくなったりするパターンだ。
「ん…まあ、はっきりめんどくさいんだけど。って言ったら、前彼にも言われたとかで、なんか逆に謝られてな。わかったって、そんだけ」
「ああ、自分を毎回ちょっとづつ修正してる子なんだなきっと。まっさん成長過程の踏み台になったんじゃん」
てつやがそう言うと、銀次も踏み台は酷くね?とひゃっひゃっと笑う。
「礎と言え」
流石に面白くなさそうにまっさんがちょこっと不貞腐れた(珍しい)
「ところで何、お前静かじゃね?」
ちゃぶ台を挟んで斜め前、てつやの隣に座っている京介が大人しいことに銀次が気づく。
「そうか?普通だけどな」
と笑ってみせるが、どこか表情が硬い。
「具合悪いんか?体温計いる?」
パシッ。
てつやが熱でもあるん?と額に手を当てた時、京介はその手を思わず振り払ってしまった。
「え…」
驚いて手を引っ込めたてつやを見て
「あ…わり…」
と目を下げるという今までにない京介の態度に、微妙な空気が流れる。
「どした?何機嫌悪い?」
ちゃぶ台に乗り出して、まっさんがー話聞こか?ーの体勢でのめってきた。自分の踏み台話をかき消したい気持ちも少し。
京介が大人しかったのは、てつやの首筋に薄くではあるがキスマークがついていることに気づいたから。
薄いので昨日今日ではないかな、とかそれにしては今朝の遅れっぷりとかおかしいし…などと色々想像して頭がグルグルしてしまっていたのもある。
さっきの男に送られてきた事といい、首筋と言い『なんだこいつ』とは思うが、1番の不機嫌はその事自体にムカムカしている自分だった。
なんでてつやのキスマークにこんなにイライラするんだ。
「いや?なんでもねえって。ちょっと寒かっただけ」
自分で両腕を掴んで擦ってみせる。
「そういや暖房弱いか。ラムネも冷たかったしな。温度あげていいか?」
まっさんが立ち上がり、壁にかかっているエアコンのリモコンを持ってきた。
「いいよ。大丈夫か?すぐにあったまるから」
そう言っててつやは自分が脱いで後に置いておいたブルゾンを京介にかけてやった。今度は振り払われなくて安心する。
「びっくりしたわ。俺の手冷たかったなごめんな」
笑っててつやは手を擦り合わせた。
「いや、こっちこそごめん」
京介も、自分ですらわからない感情を振り撒いたことを内心反省する。
何に腹を立てているのかを考えれば自分に、なのだが、その原因は…と考えると、思考が止まってしまう。認めていいのか悪いのか…。
今の自分では決断ができなかった。
「俺もそろそろスッキリしてえなぁ。あれ以来だし」
まあ今は…ここの話に合わせないと…。
「先輩の彼女の友達って人?」
てつやはまだ手を擦っている。
「そうそう」
「どんくらい前なん?」
銀次はビー玉を落とさないようにラムネを飲み干しながら。
「あ~ゴールデンウイークあたり…?」
「「「それ以来??」」」
なんだよ…と拗ねた顔で京介は俯いてしまった。
「あ~それじゃあ今日の話は不機嫌になるわなあ」
まっさんがちょっと笑っていた。
「俺は別れる前に一回やった」
「うわ~クズかも」
「まさかやってから切り出した?」
銀次とてつやが言いたいことを言ってくる。
「ふざけんな、俺はちゃんと話だけしようとしたんだよ。そしたら最後にって言ってきたのは向こうだ」
「本当かぁ?」
京介も疑わしく覗き込んでくる。
「本当だよ!」
珍しくムキになってまっさんもラムネを飲み干した。
「てつやは最後にやったのいつ?」
「あ~おれはぁ…」
昨夜…とは絶対に言えない。それはみんなの期待している答えではないから。
「前に話した25歳の人と、1ヶ月くらい前かな。でももう最後って言われたから、俺も今後の当てはないな」
京介がちらっとてつやを見る。
ー嘘言ってんな~ー
もう首筋のキスマークが気になって仕方ない。
「うっそ言ってんじゃねえよ。これなんだっての」
京介はイタズラっぽく笑って、てつやの首筋を撫でた。
「え?」
とてつやはとっさに首を抑え、まっさんと銀次は
「なになに???」
と 身を乗り出してくる。
「キスマーク。うっすらだけどついてんぞ」
「はぁ~~??まじで?どれ!見せろ」
てつやは内心『あのやろおぉぉぉ』と丈瑠の顔を思い浮かべたが、思い浮かべた丈瑠の顔はあっかんべーとやっていて、無性に腹が立った。
しかし、今日がチャンスかも知れなかった。
勤めている店のことやその性質。そして自分がどっちでもいけることなど…。
今まで言おう言おうとしていた店のことは、言わなければならないだろうが、この、どっちでもいけるというのはみんなに言うべきことなのだろうか。
今この瞬間にその判断ができないでいる…のだがこいつらは容赦がない
「どこどこ?見せろ」
銀次とまっさんが、テーブルに乗り掛かっててつやを捕まえに来るし、京介はその隣で逃げないようにガッチリとてつやの背中に回って押さえている。
「やめろってやめろ、くすぐるな ぎゃはは」
「大人しくしろ~~」
京介がてつやを羽交締めにしている間にまっさんがくすぐって顎をあげさせる。
「あ~ほんとだ…うっすら付いてる」
2人が覗き込んで確認し、納得して元の位置に戻っていく。
「なんだよ、今日の遅刻も結局それかよ~」
「なんだよはこっちのセリフだっつの。なんなんよお前らも〜!」
笑う3人に囲まれて、てつやはまだ言おうか迷っている。
言ったら嫌われるかも知れない…でもそれは自業自得で…でもこの仲間いなくなったら、俺は辛いしロードの参加もできなくなって…
そんな思いをしてるてつやを尻目に、銀次が呆れたように笑う。
「何が店だよなぁ。ってさっきのイケメンも店だったって言ってたけど、まさかあの人も一枚噛んでるわけか?かー!やられたね」
「なんだっけ?宮…田さんだっけか、あの人が一枚噛んでるって事は、まさかおまえ女性1人の3人…」
まっさんの言葉に銀次が頬に手を当てて「んまぁ〜」とか言い出すし、ナニかをやってきたてつやに不機嫌になっていた京介もーそこまでは考えてなかった…ーと意外そうな顔をする。
「いや、いや、そう言うんじゃなくて…あのさ…俺…」
てつやがくすぐられてよれた服を直した後、急に正座し出すのに他の3人も
「ん?」
と、全員が何ごとだ?とちゃぶ台に向き直り、同じく正座をして
「うん。何?」
と聞く体勢をとってくれた。
「みんなにちゃんと話したいことがある」
3人は顔を見合わせてから頷く。
てつやは、自分が勤めているところが会員制の男性専門のバーで、裏では男子の売りをさせてるところだということを話した。もちろん内緒な、とは付け加えたが。
しかし自分は店に出てるだけで売りはやっていないし、店でイチャイチャしたりも絶対にしていないことも強調する。
「じゃあさっきの…宮田さん?も?」
銀次が聞いてきた。
「ん。あいつは店で客取ってるよ。いつか店出したいってお金稼いでる。店だけよりも儲かるからな。あいつは元々ゲイだって言ってるから、都合もいいらしいんだ」
「そうなんだ…綺麗な人だよな、宮田さん。女性にもモテそう」
偏見で言うわけではないが、あのルックスでゲイは勿体無いなぁ、などと普通は思ってしまう。
そう思うにつけ、一歩も二歩も先に大人の世界を見てしまっているてつやに、多少複雑な思いを感じるが、あの環境下にいた頃を思えば今のてつやは明るく、楽しそうな顔で暮らしている。
あの一連を見てしまったら…それよりもずっと前の、公園で頬を腫らして1人でブランコを漕いでいたり、滑り台の下のトンネルで寝ていた頃を知ってると、今の方が断然いい。
「で?」
まっさんが先を促した。
「それで…ここからは、ちょっと…言うべきなのかめちゃ迷ったんだけど、でもやっぱりお前らには知っておいてほしいなと思うからいうけど…」
話しながらも迷ってはいたが、てつやは話す事を決めた。
てつやは大きく深呼吸をする。
「俺な…男も…いける…らしいんだ…」
「「「え?」」」
3人が声を上げた。
「いけるって…男と…できるってことか?」
銀次ちょっと前のめり。
「ん…そうらしい。俺さ…一年前にあんなことあって、まして母親にまで男斡旋されてここにいるのにさ、今更男を相手に『できます』っていうの、変だよな?警察沙汰にまでなったのに、俺結局男平気なんじゃんっていうの…やっぱまずいよな。そう思うとなんかお前らに言い辛くて、なんて言ったらいいかとか、顔向けできねえとか」
自分でも何を言っているのかわからなかった。
ただただ、嫌われたくない言い訳をダラダラと言っているようで、余計に頭が回らなくなってきて…
「おいおい、おちつけ。だいたいお前、なんでそれがまずいとか顔向けできねえとかになるん?」
銀次が真っ先にそう言った。
「え…」
「俺も別にそのことに関してはなんも思わんなぁ。へえ、そうなんだって感じ」
「まあ、俺もまっさんと同じだな」
まっさんと京介も、なんだか普通に受け入れてくれる。京介はもう少し違う感情があるけれど。
「平気なん…?」
「むしろ何がダメなんよ」
まっさんがそう笑って続ける
「そう言う性質 なのは持って生まれたものでしょうがないだろ。あの事件やお袋さんの件にお前が嫌悪したのは、無理やりだとか意に沿わない事だったからであって、合意の上で性的にどっちも平気だって言うんだったら、それはそれだろ」
まっさんの言葉に驚いた
「丈瑠も…同じこと言ってた…。『自分たちとその犯罪者を一緒にするのは勘弁してほしい』って…」
「まさにその通りだな」
そう京介に言われて、てつやはなんだか急に体の力が抜けて後ろに手を付き正座から胡座に変えた。
「なんだよ~お前らそんなに考え進んでんの?すげえな…悩んでた俺がバカみたいだ」
「その丈瑠さんって人わかってるっていうか、当事者だもんな。お前だってまだ初心者かもだけど、男いけるならわかるんじゃねえの?一緒にすんなってこと」
言われれば確かにそうだ。
丈瑠の言っていた、『自分から身を任せるのと、無理やりされるのは全く違う』が頭に甦った。
「性癖なんて人それぞれだし、お前の恋愛対象がなんだろうと別に俺らの関係になんも関係ないじゃんよ」
そういうまっさんに
「ん…さんきゅ…」
あぐらの前で組んでいる指をモチャモチャしながら、てつやは軽く頭を下げた。
「俺もなんとなくだけど、男いけそうな気はするわ」
京介が急に言い出して、みんなギョッとして京介をみる。
「あ、やったことあるわけじゃねえけどさ。想像してみたらあんまり嫌じゃないなと」
てつやの気持ちを汲んでいっているのかもと周りは思うだろうが、京介にしてみれば、ノーマルだと思っていたてつやがそう言う性癖を言ってきたことで、自分のワンチャンの確率が上がったと漠然と考えてしまっての言葉だった。
しかしまたその思考で落ち込むことになるのだが、それはここれは置いておく。
「で、そう言うことに気づいたと言うことは、男とやったと言うことでいいのか?」
京介もちょっと気まずくて、てつやにそう振ってみる。てつやは急に振られて思わずーうんーと言ってしまった。
キスマークがバレてカムアウトした手前、もうそこは誤魔化せない。
「あ、いや…うん、まあ…実は昨日、さっきの丈瑠と…ゴニョ…で、それが初めててで…」
ちょっと照れながらタハーと笑って、どうしていいか判らない手を未だモチャモチャしている。
「付き合ってる?宮田さんと」
銀次はずっと前のめりになっていて、そう聴いてきた。
「いや…そう言うんじゃない。多分丈瑠は、男に襲われかけたとか言うことを、忘れてくれたらいいな、くらいな気持ちでいると思う」
初物喰いの話はここでは言わない方がいいと判断。
みんなはーああ…そう言う方法もあるか…ーと妙に納得してしまった。
京介は自分から振ってみたものの、具体的にさっき会った人と…と聞かされると、ちょっと微妙な気分になっていた。
しかしまだ自分の気持ちにすら素直ではないし気づいてることを認めたくない以上、現状に甘んじるしか無かった。
ただ、てつやが男と致してしまったことは、ちょっと悔しく感じてはいる。
「てつやはゆうべが初めてかぁ、じゃああれだな銀次と一緒にお祝いだファミレス行こうぜ!」
まっさんがノリノリでそんなことを言い出した。
「銀次の童貞卒業と、てつやの処女喪失に!」
「おい〜その言い方〜」
てつやは困って言い募るが、
「よしっいこう!」
という銀次の声でかき消される。
「まっさんごちそうさま!」
「何言ってんの?割り勘だよ」
「お祝いなんじゃねえのかよ」
「お祝いだけど、いい思いしてる奴らに奢る義理はない。むしろ奢れ」
え〜と唇をとんがらせる銀次の前で、
「それもそうだな」
と、京介もそばで納得行かなそうなてつやの腕を取って、
「奢れ」
と笑う。てつやは大きくため息をついて
「お前らって…はぁ…最高」
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