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第18話 〜色気〜

 大変だったのは柏木もそうで、 「お前らやってくれたな…」  イライラした風に、事務所では吸わない煙草に火をつけソファに足を組んで、組んだ足をゆらしていた。  店に勤めている3人と言うことで柏木も呼び出され、事実関係を語らせられ、調書を取られ、と中々手間をかけさせられた。  どこからか一報がいったのか、店を追求されると困る面もあるからと誠一郎が署の偉いさんに連絡を入れてくれ、こちらに非はないから、店の子達は今回は大目に見てやってほしいと言ってくれたらしく、4人は割と早めに警察署を後にできたのだ。 「警察は困るんだよ、わかんだろうが」 「「「すいません…」」」  3人は向かいのソファにギチギチに座らされて、柏木に説教を受けていた。 「まあ、悪いのは向こうで?お前ら音声と動画押さえてたから?まあ、下手に追求されないで助かったけどな?誠一郎さん動かしたんだぞ、手を煩わせてんじゃねえぞ?こら」  ううう、おっかねえ…てつやは初めてみる柏木の凄んだ姿にちょっと恐怖を感じ、もしかしたら稜より縮んでるんじゃないかと言うくらいしょんぼりしている。 「稜とてつやは完全被害者だったから、今回は多めにみるとしたってだな…丈瑠よ…」  幽体が離脱しそうな感じでびくついた丈瑠が恐る恐る顔を上げると、般若のような顔で柏木が睨んでる。 「おまえ…公衆の面前で、よくも誠一郎さんの立場とてつやとの関係をべらべらべらべらべらべらべらべらべらべらべらべらべらべらべらべらべらべらべらと…」  漫画で言えば、こめかみに血管浮いてんじゃないかと言うくらいの怒り様。 「す…すいません…佐藤( あ い つ)にわからせようと思ってつい…」 「ついも杭もねえんだよ!ばかが!てつやだって大学(がっこう)でやり辛くなんだろうし、誠一郎さんが小僧に肩入れしてるってあの場の全員が認識しちまっただろーが!」  うううと丈瑠は顔を下に向けて、すいません…しか言わない。いや言えない。 「今後世間がどう出るかは様子見だ。誠一郎さんは気にすんなと言ってくれてる。 お前もこれからは、仲裁はいいけどあんま余計なこと喋んじゃねえぞ」 「はい…」  それからも少し色々言われてから、てつやと稜は取り敢えず解放された。  夜に家からまた来るのも面倒だしと、2人で食事でもして来ようと近場の店へ出掛けてゆく。  丈瑠は残れと言われて残ったが、未だソファで縮こまっていた。 「反省したか?」  柏木は座っていたところを動かずに、声をかける。 「ん…ちょっと喋りすぎた。ごめん」 「あの佐藤(クソ野郎)相手にしたらそんな気になるのもわかんないでもないけどな」  何本目だかのタバコをもみ消して、柏木は丈瑠の隣へ移動した。 「真昼間から、あんな話をしだす欲求不満野郎だし、稜のこともあったしな。血がのぼるのは理解したよ。けどな…」  ソファの背もたれに腕をかけて、丈瑠の肩を抱く様な感じで横を向くと 「お前、免許証探るのに、あの佐藤(ブタ野郎)の身体(まさぐ)ったってな」  丈瑠は内心ーは?ーと思い、顔を見てしまう 「…そこ…追求されんの…?おれ…」 「そこよ」  柏木の手は、既に丈瑠の胸元を徘徊し乳首をカリカリと爪で引っ掻いていた。 「昼間から盛るブタ野郎って罵ったばっかじゃん?」 「俺もブタ野郎」  そう不敵に笑って、ソファの肩掛けの方の手で丈瑠を自分に向けキスをした。 「んっ…ねえ…」 「ん?」 「何に欲情した?」  どう考えても柏木が欲情する要素がわからない。 「お前ってことじゃダメなんか?」 「俺を叱りつけて興奮したんじゃ、趣味が変わったとしか思えないけど」  一応キスは受けるが、話は違うところにある気がする。 「いや…ん〜」  あまりの追求に、柏木は一度丈瑠から離れてソファに座り直した。 「お前さ、どう思う?てつや」 「は?てつや?てつやが何」 「あいつ最近よく遊んでるっぽいな」 「ああ、そうみたいだな。学校でも気の合うやつできたみたいだし、アッチのオトモダチも男も女も何人かいるみたいだ。俺の取り合いが起こってめっちゃ笑ったとか言ってたな」  と丈瑠も笑うが、でもなあと続ける 「最近のてつや、遊んでるせいなのかなやたらエロいよね。黙って立ってるだけで、こっちが勃っちまうくらい」  へへへと笑って、これは俺が思うことだけどね、とごまかす。しかし、佐藤も同じ様なこと言ってたなと思い起こすと、柏木も 「そこだわ…」  と、コーヒーを淹れに立った。 「え?柏木さん、てつやで欲情したの?」  黙っていると言うことは… 「うわ、てつやに欲情して俺で晴らそうとした…サイテー」 「いや、すまない…」  謝るんかい…空気が変になんだろうよ… チッと舌を鳴らして脇のクッションを抱えた時、ふと香るコーヒーの香りが 「なんかいつもと違う香りするけど…」  と、後ろのキャビネットでコーヒーを淹れてる柏木に振り返ると、たまに出るとっておきのドリップ式をいれてくれていた。 「なにそれ、反省してるって姿勢?」  クッションに突っ伏して、声を殺して丈瑠は笑う。  あまり大袈裟に笑うと可哀想な気がして。かわいいかよ。 「まあ、そのはなしだがな…」  と、準備が終わって柏木は、ちょっとバツが悪そうにマグカップを丈瑠の前においた。 「そろそろまずいなと思っててな」  まずいって?丈瑠はいただきます、とカップを軽く掲げてから一口口にした。いつものインスタントよりは美味しかった。 「お客さんが、あの色気に気づき初めてて…」 「ああ…」  確かに、男も女も経験豊富になればそれなりの色気も増してくる。それに天性が加わったてつやは、もう少ししたらちょっとやばい感じになりそうだと柏木は言っている。 「売りを始めるか…それとも…」  丈瑠はカップに唇をつけたまま柏木を見た。 「店、出させらんない…?」  そうだな…と柏木も自分のカップを持って隣へ腰掛ける。 「事務仕事でもいいならいいんだけどなぁ…」 「ああ、ほらあいつあいつ」  京介は、同じ学部の友人と新市街へと遊びに来ていた。  大学へ入って以来、京介は新市街を根城としてつやに負けじ劣らず遊び始めている。  今日は、その友人が連れてきた高校の時の女友達2人も一緒で、その子たちは明らかに京介目的でついてきていた。 「え?どれ?どいつ?」  友人の1人が道路の向こうを見ながら言ったのに、もう1人が答えている。  京介も何の気なしにそっちに目を向けると、そこにはてつやがいた。一緒にいるのは、センターの日にてつやの家にいた『美人』。名前も覚えてないけど、容姿がインパクトあったので覚えている。 「あの白いダウン着てるやつさ、あいつこの辺りを仕切ってる誠一郎ってやつのオキニらしいぜ」 「え?まじで?なんか壮絶に色っぽいなあの人。やっぱりオキニってことは… …なんだろうなあ。そうでなきゃあんな色気出ねえな。側に来たら俺勃っちゃうかも」  てつやは白いダウンを着ていた。 「それなんの話だ?」  京介も加わってみる。 「ああ、この界隈の噂話でさ『誠一郎の女』って呼ばれてるやつがいて、そいつには誰も手を出さないてか出せないっていう見えない掟があるらしいんだよ」  なんだそれ、それがてつやってことなのか? 「掟って大袈裟じゃね?」 「いや実際あいつにちょっかいかけたやつって、みんなその『誠一郎』ってやつになんかされて新市街( こ  こ)から消えるっていう噂なんだわ」 「ちょっかいってなん?」 「まあつまり、そういうさ」 「なにー?ホモって事?私結構そういう話好き」  女が割って入ってきて、京介の腕に胸を押し当てて絡みついてきた。 「沙耶ちゃんおっぱい当たってる」  京介が沙耶の胸に手を当てて 「ん〜Dカップかな」  とちょっとモミモミ 「やだ当たってる。京介くん意外な特技!っていうか女のおっぱい触りすぎなんじゃないの?」 「そうかもな。今日は沙耶ちゃんが触らせてくれんの?それとも、芽衣ちゃん?」 『誠一郎の女』の話は、京介には心底不愉快な話題だった。  友人たちはまだ少しそこで盛り上がっているが、京介は手近な女で気を紛らわせる。 「両方でもいいけどな」  ニコッと笑って女性2人を両手に抱えて歩き出す。 「おいおい京介、やめとけ。初対面でよくもまあ」  友人の建人が呆れて苦笑する。  京介は大学に入って自分の気持ちを定めていた。 『てつや以外はどうでもいい』と。 ゲイなのかと言われたらそうでもない。今の所男と寝たことはないし、予定もない。  ただてつやを守りたい気持ちが大きかった。  中学の頃のてつやをみてきて徐々に育った感情なのかもしれない。しかし、それはもっと根深く、なんなら小学校時代のてつやを守れなかった自分も悔しいし、そのときそばにいたまっさんや銀次にも時々嫉妬してしまうほどだ。  自分のおかしさもちゃんと弁え、狂わないように、てつやの負担にだけはならないように、そう考えて発散のために遊びに出ていた。  男だって女だっていい。使ってやる。             〜〜〜〜現在〜〜〜〜 「なんだよ」  笑いながらてつやは背中に懐いてきた京介を、後ろに手を回して撫でてやる。 「どした?」  先日てつやが昔の夢を見たという話を聞いた辺りから、京介もあの頃のもやもやした気持ちが思い出されていた。  あの時ちょっと狂ってたな…という自覚はあった。  裏新市街にいたてつやと少しだけ疎遠になっていたこともあり、遊びにかこつけててつやを見張ろうと入り込んだ新市街( ま  ち)である。  そこで会うときはいつも楽しそうで、てつやが楽しければそれでよかった。  てつやがどこか変わってしまうかもしれない恐れはあったが、時間が合えばまっさんや銀次とともに遊んだりもしていたし、その回数は少なくても『仲間』の意識はちゃんと繋がっていた。結果、てつやは変わらずに戻ってきた。  今、ここにてつやがいることがちょっと奇跡に感じてつい、背中に懐いてしまったのだ。  テーブルというか、ここにきた当初からあるちゃぶ台で、てつやはマンションの間取り確認をしていた。相当焦っているはずだが、人が住むところということでじっくりと確認し、疑問なところにチェックを入れている。  その後ろに座り込み、自分の両足の真ん中にてつや を挟んだ京介は、肩越しにその作成図を覗き込んだ。 「なあなあこれ見て」  てつやが床に置いた書類から一枚撮って、自分と肩口の京介に見えるように広げる。 「俺たちの部屋」  肩に乗ってる京介にちょんと頭でこづいて笑った。 「どれどれ?」  てつやの脇から手を出してその紙を持つと、てつやが説明してくれる。 「玄関入ってすぐ通路って、俺あんま好きじゃなくてさ、やりたくなかったんだけど、そうすると外に通路作ることになるって言われてさ、家の中が狭くなっちまうから仕方なく、廊下つけた」  ペンで示しながら、話してくれる。 「そうそうここここ、みてみ」 「ん?これ、風呂?デカくねえか?」  京介が笑うほど、浴室が大きい。 「うん、今ここは検討中なんだけど、浴槽はでかい方がいいだろ?一緒に入れるし」  普通にそう言うてつやが愛おしい。 「でもさ、洗い場がでかい必要性ないんだよな」 「そ?でもまあ今のところより広ければ俺はいいかな。どんなでも」 「これ、1.25坪らしいんだけどさ…さすがに…」  とてつやは笑いだす 「流石に広すぎな」  京介も笑って用紙を置いた。 「一緒に入れる浴槽があればいいや」  てつやの腹に手を回し、首筋にキスをする。 「だめだぞ〜。これ明後日までに全部なんだからな。俺らの部屋はお前に任せようかな」 「一緒に考えようぜ〜。でも見たかぎり、てつやにしては中々面白い間取りにしたな」 「だろ?みんなが泊まる部屋も作ったしな」  仲間大事な2人の案だ。 「俺ら2人別々の部屋もあるんだな。  再びてつやが持った図面をみて、京介がそこを指で示した。 「そうそう、お前もタバコ吸えたほうがいいだろ?自部屋で思う存分吸え」  とてつやは笑う。 「俺も、株をちょっと本格的にやろうと思ってるから部屋欲しかったしな」  2人の寝室ないのな…と京介がつまらなそうにいうが 「お互いの部屋に特注のでかいベッド置こうぜ。どっちにも寝れるように…多少暴れてもいいようにさ」  ちょっと横を向いて、京介の頬にキスをした。 「いいねえ」  顔を向けて唇に重ねる。 「ダメだって言ったぞ…」 「そういう顔してねえけど」  京介は笑って腕を抜いて、てつやから離れた。途端にてつやが不安そうな顔をして振り向き、その顔を見て 「ほらな」  と再び笑い 「おまえ!」  とムキになって這ってきたてつやを抱き止めた。 「少し休憩するのも大事だぞ」  と、唇を舐めるとてつやがその舌に舌を合わせ、そしてのしかかって唇を重ねてゆく。  あの時があって今がある。  必要な時期はちゃんとあって、そこを通過しなければ辿りつかない場所もある。  京介はてつやを抱きしめそんなことを考えながら唇を堪能した。  ベッド行くか?と聞いてみると 「ここでいい…」  てつやは性急に京介のスエットを下げ、ソレに唇を這わせる。 「随分急ぐな」  腰をくいくいと上げて、てつやの口との摩擦を促すと、ちょっと苦しそうに顔をあげて 「今すぐ欲しいから…」  と、時々出てくる壮絶な色気を隠そうともせずに起き上がり、自分もスエットを脱いで京介に跨ると京介自身に手を添えながらゆっくりと自分へ沈めてゆく。 「んっ…」  慣らしもしてないのに入り込んでゆく自身を見て、京介は 「は…おまえ、風呂で慣らしたな…」  と、しょうがねえなと笑った。てつやはー当たり前だろーと言って、最後まで腰を落としていく。  前後に振ったり上下に突き上げられたりして、京介の上でてつやは乱れた。 「京介ぇ…?」 「ん?」  てつやは前に倒れ込んで、京介に抱きつく。 「俺はお前のだから…離れないから…大丈夫だぞ」  昔を思い出してモヤモヤしてたのを見透かされていた。 「バレてたか」   京介は苦笑して、てつやを強く抱きしめ 「俺もだよ…」  と告げて、大きく腰をせり上げる。 「ん…ぁあっ」  言った途端に突き上げられて、てつやの顎が上がった。 「はっはぁあっあぁんっ いいっすご…いいっ」  重なったまま腰を振り、自身を擦るようにしててつやはあがっていく 「あっあぁっきょ…すけ…ああっああっああ」 「んっ、あいしてるてつや…」 「ぅん…おれも…あっああっ」  突き上げが激しくなり、上半身を起こしたてつやは揺らされるがままに揺らされ、2人は同時に果てて行った。              〜〜〜〜〜戻る〜〜〜〜〜

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