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第25話 〜吃驚〜

 檜のお湯はなぜか柔らかいな…という気がしててつやは肩にかけながら堪能していた。  背中には誠一郎がいて、こんなふうに寄りかかって風呂に入るのも初めてのことだ。 「疲れてないか?」  てつやの肩にお湯をかけながら誠一郎が優しい声をかけてきた。 「うん…へいき。誠一郎の方が疲れてるんじゃん?車も運転したし、あんなんもしたし。ちょっと激しかったぞ…」  へへっとちょっと照れ笑いしながらてつやは寄りかかる。 「そうか?それは俺のせいじゃなくお前のせいだし」  お湯で顔を拭いながら誠一郎が笑った。 「なんでだよ。俺は何もしてないぞ」  何もしてないのに、大の男の余裕を奪ったのがお前の所為なんだと伝えたかったが、余裕を無くしたなんてことは言いたくなかったので 「そうだな…俺がお前をちょっといじめたくなっただけだな」  と濁しておいた。 「でもやっぱり俺は…」  そう言いながらてつやの胸に両手を当てて 「こう揉めるのがあるのが良いなぁ」  と手のひらをワキワキした。 「まあそうだろうね。ぺったんこで悪かったな」  てつやも笑って、その手を両手で捕まえる。その際誠一郎の指が乳首に触れてしまい、てつやが身体を反応させて身を硬くするアクシデントが起こる。 「なんだぁ?お前ここ弱いのか。さっき攻めればよかったな」  笑いながら乳首を手のひらで転がし始めた。 「ね…それはだめだよ…もうおし…まい」  抑えていた手をより強くグリップして、誠一郎の手を自らの肌から遠のける。 「なんだよ気持ちいいならいいじゃんか」  不満そうにそう言って、とりあえず引いてはくれたが、弱いところを知られてしまった…とてつやは少々照れた。 「あまり誠一郎に無理させらんないよ。結構疲れてるだろ。とりあえず一回寝よう」  てつやは立ち上がって湯船を出る。何時に帰るかわからないけど、時間があったらもう一回入りたいなと思いながら上がり湯のシャワーを浴び始めた。 「7時に管理人が朝食を作って持ってきてくれるらしいが…起きられるかな」  お湯管理のパネルの時計を見ると、もう4時半。今から出て寝るにしても5時にはなってしまう。 「微妙だな…でも誠一郎には少しでも寝てほしい。7時に俺が起こすからマジで寝ろよ」  シャワーを止めて、ドアの外からバスタオルを取るとその場で身体を拭い始めた。  ふかふかのタオルで、いい香りがする。  管理人さんもすごく気遣いのできる人なんだな…と顔も知らぬ管理人さんに感謝。 「そこまで言われたら、寝ないわけにもいかねえな。どれ、いっちょ寝るとするか」  寝るにしては気合いを入れすぎな感じで誠一郎も湯船をあがり、てつやにかからないように上がり湯をすると、てつやのバスタオルを取って身体を拭い始めた。 「新しいの使えよ。そんな冷たいやつ使わなくたって」  急いでバスタオルを取って渡そうとするが、いいんだといって、もう一つ置いてあったふわふわを取り出すと、ふわりと着込んだ。バスローブだった。 「バスローブだ!俺も着たい!」 「バスタオルと一緒に置いてあっただろ」  と言われ見に行って、一つのふわふわを持ってきてバスローブを着込む。 「これさ〜憧れてたんだよ〜〜」  ローブの紐を縛って、嬉しそうに浴室を出るてつやに続いて誠一郎も浴室をでた。  とりあえずお互いの髪をガーーっと乾かして、誠一郎に案内されて寝床へと向かう。…が… 向かった先にあったものはと言えばキングサイズの布団で、見るからに昔時代劇で見た殿様が寝るようなふっかふかなお布団であった。 「なんだこれすっげえ〜おもろ〜キングサイズの布団があるんだ」  笑い転げてしまって、ちょっとハイテンション。  掛け布団をめくってゴロンと横になったてつやは 「うわ…広」  手足もそんなに短くないはずだし身長もそれなりにあるのに、どこも体がはみ出さない。  自部屋のクイーンサイズでさえ、両手を伸ばすと指先が出るほどなのだから、これはキングサイズよりももしかしたら広いかもしれない。  この布団は、実はてつや をここへ呼ぼうと決めた時に誠一郎が特注で作らせたもので、まんまてつや仕様なのであった。  まあ後々にも使えるだろうと作ったものではあるが、本当に大きい。  ワイドキングサイズというものがあるそうで、それが幅200cmというからそれより大きいこれは一体…。  ともかく自分の体格でゴロゴロできる布団も稀なので、てつやは思う存分ゴロゴロしてみた。 「すげえ…どこもはみ出ない…俺もこれ作ろうかな…」  などと呟いてみるが、考えてみたらこの布団を敷いたらベッドが置いてある部屋全てが埋まる気がする…と思いたち断念する。 「欲しかったらいつでも言え、これやるから」  誠一郎も布団へ上がってきて、ゴロゴロしているてつや を止めてその傍へ横になる。 「オレも普段ベッドだが、なかなかいいなこういうでっかい布団も」  自分で作ったものだが、横になってみるとなかなか面白い。 「な、いいよなこれ。こんなでかい部屋でしか使えないけどな」  布団に目を奪われていて気付かなかったが、部屋自体がえらく広かった。  こんなでっかい布団が敷いてあるのに、真ん中ポツンというイメージである。 「まあ、仕事柄人数が多い所帯なんでな。広い部屋は必要なんだ。こうしてただ布団を敷くとだだっぴろいけどな」  言われて誠一郎も見回すが、やはりビジュアル的にも面白い。 「てつや( お ま え)といると面白いこと多いな」  てつやにいつもやるしぐさ、髪をくしゃっと混ぜながら撫でて笑う。 「俺が面白いんじゃないだろ。この部屋のビジュアル作ったのは間違い無く誠一郎だぜ」  それでも面白いことには変わりなく、てつやは枕元に並んでいるものにも目を向けた。 「これなに?」 「水だな」  綺麗なガラスピッチャーに8分めほど水が入っており、並んでグラスが二つ置いてある。 「管理人が昔かたぎ気質な奴でな。昭和にはこういうのが枕元に置かれてたんだと言って聞かん」  へえ〜と納得して、じゃあこれは?とピッチャーの隣の螺鈿細工の小さな箱を開けてみると 「おい…」  と誠一郎を睨む 「俺が頼んだわけじゃねえよ、さっき言ったろ管理人は昔気質だって。そういうのも礼儀だと毎回置かれんだよ」 「ほんとに〜〜?」  疑わしい目で誠一郎を見て、てつやはコンドームの入った小箱をカコッと音を立てて閉めた。 「使わないよな…?」 「さあてね」  ニヤニヤしててつやの頬に指を這わせる。 「だめだぞ。誠一郎は寝ろ!そうやってわざわざ疲れることすんな」  布団をかけて、とりあえずは2人で寝るけど、と枕を直す。 「お前は平気か?」 「平気に決まってる。さっきしてもらったからな…」  ちょっとモゴモゴして、顔を布団の中に鼻まで潜り込ませた。 「それならいいな」  誠一郎も上を向いて、枕元のリモコンで電気を消すとーおやすみーと言って目をとじる。  てつやも鼻まで潜り込ませたまま、そのまま寝入っていった。    夢を見ていた…と思う。  身体を這い回る舌が心地いい。  寝る前に誠一郎に弄られたからかな…と半分明晰夢のような感覚に、それなら思う通りに夢を操作しようと思った。気持ちいい夢なら徹底的に気持ちいい方が良いなとは誰でも思う。  自分の腰は揺れてるし、乳首攻めてほしいかな…と思ったらやっぱりその様に這う舌が到達してくれた。  夢だし盛大に声出してやる… 「あぁっ…ぁ…きもちいぃ…そこ…いい」  ーあれ?ー 声が実際に出たことにふと目を開けてみる。が、目の前は真っ暗だ。 「あれ…まだ朝じゃないのか…真っ暗…んっ…あ…え?」  夢から引き続いて舌の感触は残っていて、乳首を吸われて思わず声を漏らしそうになり、慌てて起きあがろうとするがそれは両手の拘束で叶わない。 「え…なに…?誠一郎?こんなイタズラしないでくれよ。手、なんだよ」  布状の紐で縛られて、何かに結えられているらしく、両手は上に上げられた状態で下ろすことができないでいる。   「誠一郎?応えてくれよ。俺のこと弄ってるの誠一郎だろ?」  てつやはなんだか怖くなって、身を硬くした。 「誠一郎じゃないのか…?じゃあ誰だよ…」  足が戦闘体制に入りかけた時に、耳元でーしーっーと囁かれた。 「大丈夫だ。お前の知らない人間じゃない」  ウイスパーボイスで、知らない人間じゃないと言われたが。その音声じゃ誰なのか聞き取れない。 「え…だれ…」 「安心して暴れないと約束してくれたら、手を外すから。大丈夫だな?」  喋り方に覚えがあるが、不意に思い出せないでいた。 「う…ん。わかった…」 「あと目隠しは、プレイの一環だから外さないでおいてくれ」  なんなんだ?勝手に寝起き襲っておいて、いきなりプレイだとか頭おかしい。 「不意にこんなことしててお前に殴られやしないかと、つい縛っちゃっただけだから」  そう言いながらその人物は手首を縛っていた紐状のものを外してくれて、やっと両手が自由になった。  ただしプレイの一環の目隠しは、外さないとは約束していない。そんなおいたをする奴の顔くらいは見てやる、とてつやは当たり前にアイマスクを取り去った。 「あ、お前っ!」 「……柏木さん……?」  2人は目を合わせたまま10数秒止まってしまう。 「……何してるんすか…」  てつやの体はバスローブがはだけ、前面が全面露出しており、柏木はワイシャツの前だけを肌けた格好で、今はてつやの両脇に手をついていた。 「アイマスク取るなって言っただろうが〜」  取り敢えずてつやの上からどいて、傍に寝そべる。  え〜寝転んじゃうんだ…とてつやは首だけを柏木に向けて、じーっと見つめていた。 「なんでここに?」  いや別段いたって良いんだけれど、でもなぜ朝っぱらに俺を襲っているんだと…。 「いやぁ〜起きてから…と思ってはいたんだがなぁ…見てたらこう…ムラムラッと…しちゃってな?だったらもう、1人で弄ってようかな〜って…」  となりで肘枕をしながら、ウヘヘ〜と笑っている柏木にてつやはため息をつく。「誠一郎さんがな、セッティングしてくれたんだぞ。俺は別にお前のことは諦めてたんだけどな」 「諦めてたとかそう言う話なんすか?も〜、なんなんよ」  別荘で湧き立ち、檜風呂で色んな意味で大興奮した朝に、またこんな現実? 「俺のエロにどうのこうのっすかあ?」  その話はもううんざりだったんだが、柏木は 「いやいや、俺は最初からいつかはと思ってたぞ。由緒正しいゲイだからな俺は。しかしなぁ『誠一郎の女』と銘打たれると、俺の立場じゃ無理だったんでな、それで諦めてたって話よ」  由緒正しいゲイとは… 「ふうううん…でも柏木さんは丈瑠がいるでしょ…」 「あいつだって好きにやってるぜ。って言うか、俺たちは別段『まだ』付き合ってるわけじゃねえしな。縛られんのもお互い嫌いだからこんなもんだぞ」  こんなもん、と言うのはなんとなく理解はできる。丈瑠は店でも積極的にお客さん取ってるし、自分ともよく『遊ぶ』 「じゃあ…目も覚めたことだし、よろしく頼むわ。やっぱ寝込みを襲うのは性に合わんかったわ」  そう言って柏木はてつやの乳首に指を這わせ、ちょうどこちらを向いている唇にキスをしてきた。  なんだか事情はよくわからないが、乳首を弄られちょっと気持ちが上がってしまったから、柏木に身を任せるのを是とした。

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