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第3話 魔王様ショタ化する

 大魔王を包んだ光の炎のまばゆさに、再び目を閉じざるを得なかったジェイミーは、ゆっくりと瞼を開いた。 「……!!」    驚いて声にならなかった。ジェイミーの瞳に映ったものはなんと……! (子ども!?)  というより、幼児だ。三歳か四歳くらいではないだろうか。そこには二十代後半に見えた魔王の姿はなく、邪気のなさそうな幼児が横たわっているだけ。魔王が着ていた服に包まれて。 「え、え、ええ?」  ジェイミーは驚きのため、しばらくその場に立ち尽くしていた。  *** (姉さんになんと言って説明しようか)  今、ジェイミーの頭の中はハンナの怒った顔でいっぱいだった。おそらく背中に背負った幼児は魔王なのだろうが、幼児は幼児だ。そのまま魔の森に捨て置くことはできなかった。  ジェイミーは顔しか取り柄はないが、心根の優しい青年なのだ。  ……あまり考えていないだけだろうと、間違いなくハンナに突っ込まれるだろうが。  とはいえ、いくら幼児でも魔王にとどめを刺せなかった上、連れて帰ったとあっては、ハンナは突っ込みをいれるより先に目を三角にして、「お待ち! ジェイミー!」と裸足で駆けてくるだろうし、村の皆は慌てふためくだろう。  目覚めたら魔王の記憶がなければいいのに、とジェイミーは思った。 「ふう。やっと少し休める」  小さな宿に入り、狭いベットの壁側に魔王を寝かせ、自分もその横で腰を伸ばした。  ココット村を出てから約十日。初めて長く歩いたし、不戦とはいえ魔王に立ち向かった。加えて一日半の間、幼児化した魔王を背負って歩いた。  普段運動などしないからどこもかしこも筋肉痛だ。  湯浴みもせず、ジェイミーは吸い込まれるように眠りの世界に入っていた。 「おい、おちろ! ゆうしゃ、おちろ!」 「うぅ~ん……」  なにかに肩を揺らされている。落ちろ落ちろと言われているように聞こえるが、瞼は重くて開かないし、弱い力で揺らされてもジェイミーの体は寝入った時の体勢のまま動かない。 「このやろう。いいかげんにおちろ!」  ぱちん、と弾ける音がして、頬に小さな痛みを感じた。  ジェイミーは開けたくない瞼を少しずつ開ける。 「……?」  最初はぼんやりとした黒い影。  すると、パチン! 反対側の頬でも音がして、痛みを感じた。  なんだ? と頬に手をやっていると、徐々に影の輪郭がはっきりしてくる。 「わぁ……かわいい子だなぁ……」  まだ夢の中にいるのだろうか。目の前にいるのは肩までの黒髪を艶々と光らせて、長いまつ毛を瞬かせている可愛い女の子。  妖精さんかな? 「ふじゃけりゅな!! だれにむかってかわいいだなんて! わりぇはまおうぞ!」 「…………!!」   「まおう」に、一気に目が覚めて体を起こす。声の主に顔を向ければ、そこにいたのは女の子ではなく、幼児化した魔王だった。 「目が覚めたのか……!」 「しょれはこっちのセリフだ。きさま、わりぇにじゅじゅちゅをかけたのか!」  言葉がとてもたどたどしく聞きとりづらい。けれどだいたいはわかる。 「よかった! やっぱり君なのか!」  ジェイミーは魔王を抱きしめた。 「な、な、なにをすりゅ!」  魔王はじたばたと体を動かしたが、百センチ近も低くなった九十五センチの背丈ではジェイミーの体を跳ね返すことはできないし、覚醒してからすぐ、魔力を使ってこの場から消え去ろうとしたが、全く力が出なかった。  幼児化と同時に、全ての魔力も失っているのだ。消えていないのは記憶だけ。 「よかった。本当に無事でよかった」  じたばたしたらした分、ジェイミーは魔王をぎゅう、と抱きしめる。 (よかった? だと? なんだこいつ、我を倒しに来たのではなかったのか? なぜこんなに喜んで抱擁してくるのだ。ええい、離せ。熱苦しい! 熱いったら熱い……あつ……あったかい……?)  言葉にしない声は舌足らずではないようだ。  魔王は疑問符を頭に浮かべながらも憤慨していたが、いつまでも自分を抱きしめるジェイミーの温かさに、胸まで締めつけられる気がした。  中身は魔王でも幼児化したからなのだろう。体の反応はしっかりと幼児のもので、温かい扱いを受け、なんだか安心したような気持ちになり、意志と関係なく泣きたくなった。 「うぅ、うわーん!」  気づけばもう、魔王は涙をいっぱい溜めて、ジェイミーの胸の中で泣きじゃくっていた。  無事でよかったなんて、誰かに優しく抱きしめられたことなんて、初めてだったのだから。

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