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第三話 皇太子・清蓮《せいれん》

抜けるような冬の青空は雲一つなく、透き通った空気が一人の若者をそっと包み込でいる。 一人の若者が、宮廷の演舞場の脇にある一室の窓から晴れ渡る空を見上げている。 彼は友安《ゆうあんこく》国の皇太子、清蓮《せいれん》。 今日は彼の成人の儀が執り行われる日であった。 成人の儀。 その名の通り、皇太子の成人を祝う儀式であり、宮廷で執り行われる最も重要で荘厳な儀式の一つであった。 この儀式は友安国の継承者のお披露目としても重要な意味をもっており、この日をもって彼は正式に友安国の継承者として認められるのであった。 「長かったな…。」 清蓮は言うほど気にはしていなかったが、それでもここに至る過程を考えれば、感慨深く、また同時に静かな高揚感も抱いていた。 それというのも、本来ならば成人の儀は、十六歳の時に行われるものだからである。 ことの顛末はこうだ。 三年前、清蓮は十六歳となった。 国を挙げてのお祝いはすべての準備が完璧に整い、あとは当日を迎えるだけであった。 しかし不運にも当日の深夜から降り始めた大雨が、時間がたつにつれ激しさを増し、国一番の大河・無間川とその支流が氾濫。 大洪水となって国土を荒らし、各地に甚大な被害をもたらしたのである。 当然のことながら儀式は延期、復興が国の最重要課題となった。 復興にはかなりの時間を要し、翌年には疫病も発生したため、当然のことながら翌年も成人の儀はやもなく延期。 昨年になってようやく国土も落ち着き、疫病も終息に向かい、人々は日常を取り戻したが、国を挙げての祝祭にはまだ早いとの反対意見もあり、これまた延期。 さすがになんとかしてあげたいと、皇太子を不憫に思う者たちも少なからずいたが、そこで暮らす人々にとっては、世の泰平、生活の安定があってこそ心からお祝いしてあげようという気になるものだ。 そして三年の時を経て、清蓮ようやくこの日を迎えることができたのである。 国を挙げてのお祝いは数か月前から各地で始まり、国民は歌い、踊り、酒を飲み、それぞれが見たことも会ったこともない皇太子を祝福したのである。

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