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第五話 成人の儀(ニ)

              演舞場に近づくにつれ、観客の熱気と興奮が最高潮に達しているがわかる。 侍従に促され、清蓮は一つ大きく息を吐いてから、舞台中央に向かって歩を進める。 会場の熱気は、清蓮の登場で一転、凛とした空気に変わる。 心地よい緊張感は清蓮の天女のような美しさと相重なり、その姿は、神々しいまでの美し さとなって人々を釘付けにする。 清蓮は舞台の中央に立ち、二階の貴賓席にいる国王夫妻に深々と一礼する。 成人の儀では、演武と演舞の二つを披露する。 友安国では、心身の鍛錬として剣術は身分を問わず、人気があった。 とはいえ、剣の究極は殺傷を目的としているため、剣に対して憧れを抱く者もいれば、権力や恐怖を想起する者もおり、それは各々の心の中で畏敬と畏怖の象徴として、赤く黒く漂っている。 一方、人々は剣術以上に歌や踊りをこよなく愛した。 誰かが口ずさみ、踊り始めると、それは心地よい波動となって周りにいる者にも伝播する。 人々の日常に、人生に歌と踊りは欠かせないものであった。 いまここに集まったすべての民は、皇太子の姿を間近で見られるという名誉と、これから始まる人生最大の余興をいまかいまかと胸躍らせて待っている…。

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