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第七話 暴発
人々の極限に達した、異様なまでの熱気と興奮はおさまることを知らなかった。
みな等しく、誰もがこう思ったのだ。
自分もあの幼子のように、皇太子殿下のそばにいきたい。
皇太子殿下を近くで見たい。
触れたい。
もっと近くで!
もっと近くで!!
誰が始めたわけではなかったが、強烈な願望は彼らを盲目にさせ、自らの欲求を満たすべくじりじりと皇太子の方へ向かっていく。
その動きは、初め穏やかな川の流れのようであったが、次第に歯止めが効かなくなった人々の波は、激流となって清蓮に襲いかかってきた。
ただならぬ状況に護衛も制止すべく動き始めたが、時すでに遅く、すでに手に負えない状態になっている。
もはや彼らに暴徒と化した民をとめる術はなく、場内に渦巻く混沌と怒声は、虚しく激流にのまれていった。
母親と話を終えた清蓮は、ただならぬ場内の雰囲気と押し寄せてくる民を見て、瞬時に何が起こったのかを理解した。
彼は動じることなく、母子を安全な場所まで案内する。
自分も避難しようとしたところで、暴徒と化した観客の一人が清蓮に触れようと彼の下衣の裾を引っ張った。
清蓮は思わず床に倒されてしまった。
普段の彼なら、造作なくかわすことができたであろうが、彼は舞と剣術を披露したばかりで、少なからず体力を消耗していた。
また彼が身にまとっている衣装は見た目とは裏腹に重量があり、扱いにくいものでもあったことも災いとなり、転倒してしまったのだ。
下衣の裾を引っ張った男は、清蓮に触れようと手を伸ばし迫ってくるのを、寸前に身を翻してかわす。
だが足を捻ったか、痛みで思うような身のこなしはできない。
清蓮は途方に暮れ、これはどうしたものかなと思ったその時、一つの閃光が清蓮の前に現れ、あっという間に七色の光となって弾け飛んだ。
清蓮はあまりの眩しさに思わず目を閉じ、反射的に何かにしがみついた。
光の衝撃を受けた人々は、焼けるような目の痛みに襲われ、呻き声を上げながら、その場でうずくまり身動とれなくなっている。
一方の清蓮はというと、思わず目を閉じたものの、なんら影響を受けていなかった。
彼はゆっくり目を開けると、閃光は淡い光となって清蓮の周りをちらちらと漂い、花火の残花のように静かに床に落ちた。
その後清蓮と人々の間には、普通の人間には見えない薄い膜のようなものが張られているのが見えた。
清蓮にはそれがなんであるか、すぐにわかった。
結界…。
何者かが結界を張ったのだ。
友泉か…?
清蓮はその考えを即座に否定した。
この結界はとてつもなく強力で、容易に破ることはできそうもない。
この結界を張った者はかなりの修練を積んでいるはずだ。
友泉も十分強力な結界を張ることはできるが、ただ、やはり違う…。
そんなことをぼんやり思いながらも、彼はうずくまっている人々のことが心配で、思わずつぶやく。
「彼らは大丈夫だろうか…。」
清蓮からは民や護衛の様子が見えるが、彼らからは結界の中をうかがうことはできない。
「心配には及びません。」
落ち着いた心地の良い声が、清蓮の耳に届く。
清蓮は声の方を見やると、長身の男が自分を見下ろしていた。
男は青蓮を抱き抱えたままたっており、清蓮が何かにつかまっていたと思ったのは、男の胸ぐらであった。
清蓮は男を見た途端、はっと目を見張る。
他を圧倒するほどの美貌をもった男の顔がそこにあった…。
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