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第十話 妹(ニ)

「名凛《めいりん》、今日は一段と綺麗だね。」 名凛と呼ばれた女性は、清蓮より二つ年下の妹だ。 清蓮と名凛は双子と思うほどよく似ていたが、その印象は少し異なる。 清蓮は淡く柔らかな春風を思わせ、名凛は初夏の爽やかな風を連想させた。 その彼女が一段と美しく見えるのは、彼女が今日、化粧をしているからであった。 彼は、いつもとは異なる装いの彼女の美しさを素直に讃えた。 ただ一つだけ残念なことに、彼女の顔には、生まれながら左の額から眉尻にかけての赤いあざがあるのだ。 国王夫妻は生まれたばかりの赤子の顔にあざを見た時、それはそれは痛く悲しみ、哀れに思ったものだ。 なんとかしてあげたいという親心に権力と財力が加わり、ことあるごとに国中のその道の権威とやらを呼び寄せたり、名凛を治療に行かせたりと、なんとか彼女のあざを治そうとしているのである。 ただ彼らの権力も財力も、ありとあらゆる治療も、国王夫妻を喜ばせることはできず、彼女のあざは、顔の一部を赤く染めたまま消えることはなかった。 ただ当の本人はというと、ある出来事を境にして、表面上は嘆き悲しむだけの自分に別れを告げ、両親の心配をよそに自由闊達に生きているのである。 清蓮が友泉をちらりと見る。 あれだけ文句を言っていたのに、名凛が入ってきた途端、どこかに消えてしまったかと思うくらい、静かになったからである。 友泉はどこかに消えていたわけではなく、ただ名凛のいつもとは違うさまに、驚き何も言えなくなってしまっていたのである。 友泉、君はほんとにわかりやすい… 清蓮は、呆然として立ち尽くす友泉を見ながら軽く咳払いする。 「友泉、そんなに見つめてどうしたんだい?さっきまで文句言ってたのに。」 「あぁ、いや…。なんでもない…。孫にもなんとかってやつだな。」 友泉は上の空で、名凛から目を逸らしながら答える。 「よく言うわね!いま、あなた、私《わたくし》の美しさにひれ伏してたでしょう!!」 「な…! 何を言ってるんだ。お前は馬鹿か!!」 また始まった…。 いつもこれだ…。 清蓮は首を横に振ってぼやいた。 こうなるとしばらくおさまらない。 二人のやりとりをよそに、清蓮は侍従たちが運んできた荷物の一つに目をやった。

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