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第十三話 儀式の後(ニ)
「みなの者、今回のことでは、心配をかけた。皇太子が無事であったことは、なによりであった。だが、この騒動については、偶発的とはいえ、暴徒化した民が皇太子に襲い掛かるという前代未聞、あってはならぬことである。」
国王の言葉を聞いて、彼をよく知る重鎮たちは、今から起こるであろう嵐を前に、命を削り取られる思いになった。
清蓮の父であり、国王である清良《せいりょう》は常に冷静で、感情のままに人を圧することはなかった。
誰に対しても公明正大であり、有能であれば身分の高低なしに登用し、伝統を重んじながらも、柔軟な姿勢をもった王であった。
ただ当然のことながら、国王として、必要とあらば容赦なく切り捨てていくだけの非情さも同時にもち合わせていた。
重鎮たちが恐々としていると、突如、清蓮は国王の前に跪き、恐れながらと話し出す。
「国王陛下、恐れながら私に発言の機会をお与えください。」
重苦しい空気が漂うなか、国王として清蓮に目を向け、言葉を促す。
「陛下、今回の件に関しましてはすべて私に責任がございます。」
国王以外の者は、清蓮の発言に驚きの声をあげた。
「なぜそう思う?」
国王は驚く気配もなく、清蓮に問いただす。
「そもそもの発端は、私が成人の儀に民を招待するよう、お願いをしたことに始まります。責任の所在は明白、どうか私を罰してください!」
「…‼︎」
その場にいたすべての者が言葉を失う。
自らの発言で起こったことはいえ、どこの世界に、自分を罰してくださいなどと訴える皇太子がいるのか⁈
半ば呆れる者、感心する者、眉間に皺を寄せる者…、その場にいる者が、皇太子の発言に異なる反応を示していた。
すべての目が、国王と皇太子である清蓮に注がれるなか、同席していた国王の弟である天楽《てんらく》が前に出た。
「陛下。発言をお許しください。」
国王は無言で頷く。
「今日のことは残念ではありましたが、清蓮もこのように反省しております。祝いの日でもありますから、まずは事態の収束を最善に、この件については日を改めて、審議してはいかがでしょう?」
その通りだ…。
誰がこのめでたい日に、辛気臭い話などしたいと思うのか?
天楽の言葉に多くの者たちが、無言の支持を示した。
国王は、そばにいる王妃にだけ聞こえるため息をつき、国王とも父親ともいえぬ微妙な表情で清蓮を見た後、控えの間にいるすべての者に目を向け、再び話し出す。
「清蓮、天楽の言いたいことはよくわかった。天楽の言う通り、まずは事態の収束を最優先とする。その後、今回の件に関しての審議を行う。よいな?」
「御意!」
国王は、臣下を連れ部屋を後にする。
王妃も清蓮と名凛に声をかけ、国王の後に続いた。
清蓮は、立ち去ろうとしていた叔父である天楽に声をかけた。
「叔父上、ご迷惑をおかけして申し訳ございません。まさか、こんなことになるなんて…。」
いつもは楽天的な清蓮もことの重大さを感じ、自分の浅慮を呪った。
「清蓮、さっきも言っただろう。まずは、君の無事がなによりだ。こその後のことはこれから考えよう。」
「…はい…。」
そばにいた天楽の妻・栄林《えいりん》も清蓮に声をかける。
「清蓮、そんなに落ち込まないで。舞台でのあなたはとても素晴らしかったわ。それは誰も疑いようのないことなのよ。」
子供のいない弟夫婦にとって清蓮、名凛は自分の子供同然であり、栄林は愛情深く清蓮を慰めた。
「そうそう。お兄様の美しさでみんな舞い上がっちゃったのよ。罪よねぇ…、美しいって。」
名凛が話に加わり、笑いが起こると、さながら本物の家族のようであった。
清蓮は少し元気を取り戻し、改めて王弟夫妻に礼を述べた。
天楽は清蓮の肩を軽く二度たたき、栄林は優し微笑んで、二人は連れ添って部屋を後にした。
部屋には清蓮と名凛だけとなった…。
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