15 / 110
第十四話 儀式の後(三)
名凛は長椅子に清蓮を座らせ、自分も隣に座る。
「お兄様、ほんと無事でよかったわ。怪我はなかった?」
「ありがとう。足を少し捻ったんだけど、彼が治してくれたんだ。ほら、この通り!」
清蓮は、治った足を名凛に見せたが、思わず自分の言葉にはっとなり、急いで部屋を見まわした。
彼を助けた男は、もうすでに姿を消していた。
みんなが退室した時に、彼も一緒に出ていってしまったのか…。
清蓮は、自分のことで精一杯になっていたため、彼の名前を聞くことも礼を述べることもできなかった。
助けてくれたのに、お礼の一つも言えなかった…。
彼に悪いことをしてしまったな…。
意気消沈している清蓮を見てた名凛は、確信的な言葉を清蓮に投げつける。
「あの人なら、また会えるわよ。心配しなくても。」
清蓮は前のめりになって、名凛に質問攻めにする。
「えっ!どうしてそう思うの?君は彼のこと知ってるの?会ったことあるの?ほんとにまた会えると思う?」
名凛は、いつも穏やかな清蓮の変わりように驚いて、思わず身をよじる。
「お、お兄様、落ち着いて!どうしたのよ、もう…。」
「あぁ、…ごめん。彼にお礼を言ってなかったんだよ、だからつい…。」
「そう…。大丈夫よ、必ずまた会えるわ。」
清蓮は、名凛の言葉に頷いた。
名凛の言う通り、また会える…。
再会できることを期待して待つしかない…。
清蓮は、淡い期待を胸にしまうと、急に頭の中でなにかが弾け、あっと声をあげた。
もう一つ忘れていたことを思い出し、名凛に問う。
「名凛、彼はどうした?ここにはいなかったみたいだけど。」
名凛は清蓮の言う彼が誰のことだかすぐにわかった。
「あぁ…。友泉なら、お兄様が襲われそうになってるのを見て、一番に飛び出していったわ。俺が止めるって。」
「大丈夫かなぁ…、みんな…。」
清蓮は、友泉が生き生きとしたさまで、観客の波に飛び込んでいく姿を想像し、友泉と対峙する相手の安否を気づかった。
名凛は清蓮の意図することを理解した上で、冷たく言い放つ。
「お兄様、いまのうちにちゃんと荒ぶる獅子を飼い慣らしてくださいね!お兄様が国王になった時には、一人前になっててもらわなきゃ。」
「はは…。」
名凛、君はもう十分飼い慣らしてるだろう…
清蓮は余計なことは言わず、ただ苦笑するだけにとどめた。
「さぁ、お兄様。部屋に戻って休みましょう。今日は大変な一日だったけど、お兄様の舞と剣術が素晴らしかったのは間違いないわ。」
名凛は、率直に瓜二つの兄を称賛した。
「ありがとう、名凛。」
清蓮は名凛の偽りのない賛辞を受け止め、彼女を抱擁した…。
ともだちにシェアしよう!