20 / 110
第十九話 当主・倫寧(ニ)
友泉《ゆうせん》を見送った名凛《めいりん》は、倫寧《りんねい》の案内で屋敷の客間に案内された。
すでに夜となり、広い客間はには、ほのかな明かりが灯されている。
薄暗い部屋のなかで、名凛は倫寧と向き合って座っている。
倫寧は名凛一行を出迎えたときよりも、柔らかい表情で名凛に微笑んでいる。
「名凛様、長旅でお疲れでございましょう。今日のところは、客室でゆっくりお過ごしください。治療につきましては、明日お話いたしましょう。」
名凛は緊張した様子もなく、よろしくお願いしますと簡潔に礼を述べる。
彼女は差し出された茶器を両手にもち、小さく揺らしている。
その様子を見た倫寧は遠慮は不要と、尋ねようか迷っている名凛を優しく促す。
「兄を助けてくださった方は…、そちらに縁《ゆかり》のある方でしょうか?」
倫寧は目を細め、ほくそ笑む。
「確かに…。その通りでございます。」
「そうですか…。兄がお礼を述べたがっておりました。会って直接お礼を申したいと…。」
「…ご心配に及ばずとも、時期が来れば必ず出会いましょう。」
倫寧は静かに、しかし確信をもってそう伝える。
名凛も倫寧の見解に同意し、客間をあとにした。
名凛が退室するのを見送った倫寧は、暗闇で見えるはずのない、はるか先にある涙湖《るいこ》と呼ばれる湖の方角を見ていた。
名凛を客室に案内した女が、倫寧の隣に腰掛ける。
「名凛様のあざは治りますかしら?」
「さぁ…。」
倫寧はあまり興味がないといった様子で答える。
「彼女はあざがあってもなくても、自分の道を切り拓いていけるでしょう…。」
「えぇ、そうお見受けしましたわ。ご自分というものをわかってらっしゃる…。」
「ふふ…。花南《かなん》の言う通り…、そして賢い…。」
倫寧は、茶を一口飲むと、花南と呼んだ女の、長く艶のある髪の一房を自分の指に絡めはじめた。
「まぁ…。あなたがそんなふうに言うの、珍しいわ…。」
それを聞いた倫寧はふふっと小さく笑う。
倫寧は、花南の首筋に舌を這わせ、伸ばした手は花南の豊かな胸をまさぐりはじめる。
「…まぁ、正直どうでもいいのよ…。彼女のあざのことは。国王たっての願いだから、聞いただけ。本来はなにがあっても干渉しない…、それが太刀渡家…。」
そう言い放った倫寧だったが、ふとまさぐる手を止め、誰に言うでもなくつぶやく。
「あぁ、でもうちの坊やはどうだろうね…。皇太子殿下にご執心で…。」
「ふふ…、そうね、小さい時から。それにしても倫寧、あなたどうでもいいって言いながら、随分楽しそうよ…。」
花南は潤んだ目で倫寧を見やる。
「…そう?私は、こっちの方がよっぽど楽しい…。」
倫寧は花南の耳元で囁きながら、再び彼女の胸を揉みしだいた。
ともだちにシェアしよう!