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第二十話 首飾り

名凛《めいりん》と友泉《ゆうせん》を見送った清蓮《せいれん》は、空を見上げ、ゆっくりと流れゆく雲に自分の心を重ね、無心に漂わせていた。 「清蓮様、お茶をおもちしました。こちらでゆっくりされては?」 清蓮の乳母である梅雪《ばいせつ》が、お茶と、胡桃を入れた小さな皿を卓の上に置いた。 「名凛様と友泉様は相変わらずでございますね。仲がよろしいのに、最後はいつも、人形やらお守りがどうだのと喧嘩になって…。」 梅雪は呆れつつ、煮え切らない二人を辛抱強く見守っているのである。 清蓮も乳母の意味するところを知って、静かに頷いた。 「ほんとに…。名凛は心配しなくても、友泉は人形もお守りもちゃんともってるのに。」 「あら、そうなんですの?存じ上げませんでしたわ。友泉様、おっしゃればよろしいのに…。」 …そう、友泉は人形もお守りも、ちゃんともっている。 清蓮は知っているのだ。 友泉が、名凛からもらったその二つを肌身離さず、大事に懐にしまっていることを。 「二人のことは、二人に任せよう…。兄としては、まぁ、あたたかく見守るだけだよ。」 清蓮は、両手にじんわり伝わってくる湯呑みの温かさを感じながら、つぶやいた。 さようでございますねと、乳母は同意し、卓の上に包みや箱を置きはじめた。 卓の上に置かれた大小さまざまな包や箱は、成人のお祝いとして清蓮に送られたものである。 清蓮は、時間を見つけては一つ一つ丁寧に贈り物を確認し、礼状を書くのを繰り返していた。 清蓮は乳母の入れてくれた茶を飲みながら、一息ついてから、一つ一つ包みを開けていった。 金を贅沢に使った装飾品、異国から取り寄せたであろう珍しい宝石類など、どれも一流の職人よる一級品ばかりであった。 清蓮はすべとの贈り物を一通り確認し感嘆と感謝を示しつつも、どれ一つ手元には残さず、近侍に手伝ってもらいながらすべて元に戻していった。 そして贈り物すべてを保管庫に運ぶよう近侍に伝えるのであった。 そういったことを何度か繰り返すうち、卓の上には小さな箱だけが残った。 清蓮がそれを開けると、中には水晶の首飾りが入っていた。 水晶は、長さは一寸ほど、六角柱状のもので、丁寧に研磨され、鎖に繋がれていた。清蓮が、太陽の光に水晶をかざすと、水晶は光が反射するたびに虹色の輝きを見せ、清蓮飽きさせなかった。 首飾りをそっと身につけ、再び光にかざして眺めみる。 よく磨かれた、透き通った美しい水晶という以外のものでもなかったが、清蓮はどの豪華や宝飾品よりもこの水晶の首飾りを気に入り、時が経つのを忘れるほど眺めていた。 「簡素だけど…、とてもきれいだ!送り主は誰だろう?」 梅雪は包み紙を確認するが、名前など身を明かすものはなく、送り主はわからずじまいであった。 清蓮はなんの根拠もなく、この送り主がこの間清蓮を助けてくれた男《ひと》ではないかと思った。 いや…、そう思いたかっただけなのかもしれない…。 梅雪は、清蓮がはにかみながら水晶を眺めているのを不思議に思いながらも、彼に話しかける。 「清蓮様、あとでこれを運んだ者に聞いてみますわ。どなたが贈ったか、わかるかもしれませんから。」 「そうしてくれると助かるよ。お礼を言いたいからね。」 清蓮はそっと水晶を胸にしまうと、彼の温もりが、ひんやりとしたその冷たさをゆるゆると溶かしていった…。

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