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第三話 記憶の中の地図
清蓮は見晴らしのよい丘から、眼下を見下ろすと、そう遠くないところに小さな集落があり、さらにその先には町らきしものも見えた。
もしかして、あの町は温蘭《おんらん》かな?
清蓮は記憶の中にある町の名を口にした。
彼は人生のほとんどを宮廷で過ごし、宮廷の外に出たのは数えるほどで、数少ない外出といえば、国王夫妻と夏に離宮で過ごしたり、仙術を学ぶために一時期とある場所で過ごしたくらいだった。
なぜ清蓮が外出を禁じられたのか?
それは次代の後継者という身分というのもその理由だが、さらにこんな訳があった。
清蓮が六つか七つの頃、例年通り夏の暑さを避けるために離宮で過ごした後、一行は宮廷に帰る途中、清蓮がどうしても川遊びをしたいと言って聞かなかった。
国王夫妻は、どうしてもとせがむ清蓮に甘くなってしまい、ほんの少しだけと川遊びを許したのがいけなかった。
清蓮はうっかり溺れてしまい、友泉の父親が助けなければ大変なことになっていただろう。
幸い、清蓮に怪我などなかったため、おおごとにはならなかったが、それ以降なにかあっては大変と、国王夫妻は清蓮の外出を一切禁じたのである。
自分の不注意とはいえ、清蓮はそれをとても悲しく思い、宮廷だけの生活を窮屈に感じ、ややもすると不貞腐れて部屋に閉じこもってしまうありさまだった。
そんな清蓮を不憫と見兼ねた国務大臣が、ある日国王に書庫の使用を進言したのである。
隣国との交易が盛んな友安国は、異国の珍しい品々を所蔵しているが、殊に書庫に至っては、異国について書かれた貴重な書物が多数納められていた。
国王は、清蓮にとってまたとない学びになるだろうと、喜んで国務大臣の進言を受け入れたのである。
予想通り、清蓮は熱心に書庫に通っては、異国の書をむさぼるようにして読んだ。
特に清蓮の興味を引いたのは、地理について書かれたものであった。
異国はもちろんのこと、国内の地図など飽きることなく眺めては、見たことのない景色や市井の人々の暮らしを想像し、楽しんでいたのである。
さらに仙術に対する関心と熱意は尋常でなく、清蓮は、国王夫妻を執拗なまでに説得し、ついに数年ぶりに仙術を学ぶために、清蓮は宮廷の外に出ることを許されたのである。
ただ残念なことに、その仙術も修練の途中、清蓮が病気になり、目指す頂には辿り着けなかったのであるが。
そんなこともあって、清蓮は以前読んだ書物の記憶から、温蘭《おんらん》という名を導き出したのである。
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