29 / 110

第八話 新たな試み

夕食をとった清蓮たちは、だだっ広い部屋に連れられ,そこで寝るよう店の男に言われる。 その部屋は、衝立と化粧台が置いてあるだけの簡素な部屋で、すでに数人の女が雑魚寝していた。 清蓮は部屋の隅で、これからどうするか、女たちをどうやって逃がそうかと考えているうちに強烈な睡魔に襲われ、いつのまにか寝てしまった。 翌早朝、また店の男が飯の時間だと言って、やってきた。 清蓮たちは昨日と同じところで、昨日と対して変わらない食事をとった。 清蓮たちは、再び部屋に戻るよう言われ、雑魚部屋に戻ろうとした時、貫禄のある初老の男が遠目にこちらを見ていた。 店の男となにやら話をしているようだが、清蓮にはその話が聞こえなかった。 部屋に戻ってしばらくすると、店の男が清蓮を呼び、彼を別室に連れて行った。 部屋には先ほどの初老の男がいて、無心に盆栽の手入れをしていた。 ここの楼主《ろうしゅ》かな? 清蓮は、警戒しながら身なりの良い男を見た。 清蓮が部屋に入ってくると、楼主の視線は一瞬清蓮に向けられるが、すぐにその視線は盆栽に向けられ、伸びた葉を丁寧に切り取っていく。 楼主は盆栽の手入れをしながら、清蓮に今から見世に出るよう告げる。 「おまえさんには、ちょっと試しにやってもらいたいことがあるんだよ。」 楼主は盆栽の手入れを終え、ようやく清蓮を見る。 楼主はその顔面に卑猥を散りばめ、無骨な指で、清蓮の透き通る頬をなぞりながら、小さく下衆な笑みを見せた。 「…⁈」 清蓮は自分に向けられる、楼主のねぶるような視線に嫌悪感を感じだが、自制心をもってその感情を押し殺した。 正直なところ、清蓮にとって、楼主や店の男たちは脅威ではない。 この場で一瞬にして楼主たちを蹴散らすことなど造作ない。 自分だけなら、いつでもできるのだ。 だが、清蓮は一人でも気の毒な女たちを逃がしてやりたいと思った。 そのためだけに、ここに留まっているのだから…。 だが、ここにいるということは、遊女として働かなければいけないということでもある。 清蓮は、焦りを禁じ得なかった。 楼主の話が終わると、再び店の男が清蓮を別の部屋に連れて行く。 部屋には女が一人、清蓮を待ち構えていた。

ともだちにシェアしよう!