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第十一話 小さな部屋の小さな穴
女が準備ができたことを伝えると、男は清蓮を一人、別の部屋に案内する。
そこは簡素な小さな部屋で、長椅子が一つ置いてあるだけだった。
店の男は、清蓮を長椅子に座るよう促す。
清蓮は戸惑いながらも言う通りにした。
店の男は、この部屋の目的と清蓮の役割を説明し始める。
この部屋には、清蓮が入ってきた扉以外出入り口はなく、壁の中央に一寸ほどの穴があいているだけであった。
その穴は清蓮の方からは塞がっているように見える。
しかし実際は、部屋の外側から見ると、小さな引き戸がついており、その引き戸を開けると、一寸ほどの隙間から、清蓮の様子が見える、つまり覗き窓の仕組みになっているのだ!
楼主は、金になりそうなことを思いついてはいろいろ試していて、今回遊女をただ見世に出すだけではおもしろくないと、新入りの売れそうな遊女をこの部屋に入れ、うまいこと客の関心を引こうと考えたのだ。
楼主曰く、美しい女が岩戸に隠れているならば、金を払ってでも、岩戸を開いて見たいだろうというわけだ。
もちろん、ただというわけはない。
客は遊女を覗き見るために金を払わなければならない。
もし気に入れば、再び金を払って遊女を買い、支払われた金額に応じて、遊女は接待をするといった具合だ。
清蓮は、男の話を聞いて、なんて馬鹿げた話と呆れたが、それと同時に自分が遊女として客の目に晒されることに、動揺を隠せなかった。
一体なにがどうなると、一国の皇太子が遊女になるのだ⁈
清蓮は、遊女を見下しているわけではないが、自分の身の落ちようにあらためて愕然としたのである。
店の男は清蓮の気持ちなど知る由もなく、話し続ける。
「それでだな、おまえさんは、ここで客を気に入ってもらえるよう努力しなきゃならない。わかるか?」
「…?」
清蓮には、言わんとするところが全くわからなかった。
そんな清蓮の様子を見て、男は、はぁと首を左右に振り、自らの体を使って、こうやるんだと説明し始める。
「例えば、覗き窓に向かってこう横になるんだ。いいか、両足を軽くの字にして、少し前に出す。これで腰のくびれを強調するんだ。頭は肘を曲げた右腕にのせて、左手は腰回りに軽く添えるんだ。」
男は、長椅子に寝そべりながら、熱心に客がそそられる姿とやらを、清蓮に教える。
「いいか、一番大事なのは、目と口だ。潤んだ目、半開きの唇…。物欲しそうに見るんだ。男と目と目があったら、捕えて、あなたを離さない〜って!好きな男に見せるようにやるんだ。わかるか⁈そんでもって、最後は、身悶えしながら、あぁ…!あなたが欲しい…っ‼︎て感じで男を見るんだ‼︎わかったか‼︎」
自らの体をくねくねさせながら熱弁する男をよそに、清蓮は顔をぽりぽりと掻いて、苦笑した。
店の男は自分の熱弁に満足したのか、一人興奮したまま、清蓮を小部屋に残し出て行った。
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