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第十四話 鍵

私を捕まえに来た…‼︎ 清蓮は、まさか彼の口から、そのような言葉が出るとは夢にも思っていなかった。  たまたまだとしても、てっきり自分を助けてくれたのだと思っていた。 あの演舞場で、暴徒化した観客から自分を助けてくれたように…。 しかし彼の言葉は、清蓮の期待を見事に打ち砕いた。 彼は命を受けて、自分を捕えに来たのだ! 清蓮は、暗い底なしの深淵に沈んでいくような絶望感に襲われた。 自分は一体なにを期待していたんだろう…。 なにを…。 清蓮は、首を左右に振って自らの勘違いを嘲笑った。 男はその様子を見て、無表情だった顔に、初めて僅かながらも苦しそうな表情を見せた。 だが、今の清蓮に他人の心の機微を感じる余裕はなかった。 私はここで捕まるわけにはいかない‼︎ 清蓮は男を見据えて、断言する。 「君には悪いが…、私はここで捕まるわけにはいかないんだ!」 清蓮は言うと同時に、近くにあった椅子を男に向かって蹴り上げ、その隙を狙って、男が手にしている鍵めがけて手を伸ばす。 男は両手を後ろ手に組んだまま、悠然とした態度で、飛んでくる椅子をぎりぎりのところでかわす。 清蓮も一度で鍵を奪えるとは思っておらず、間髪入れず右に左にと手刀を繰り出す。 男は上体を軽くひねりながら、清蓮から繰り出される手刀をすんでのところでかわしていく。   清蓮は手を緩めず蹴りも加えて男に迫るが、これもやはり容易にかわされてしまう。 無表情だった男は、徐々に楽しくなってきたのか余裕の笑みを浮かべている。 清蓮の手刀や蹴りは、目にも驚く速さで繰り出されていたが、逃亡してからの疲労や緊張、怪我もしているとあっては、次第に威力も速度も人並のものとなっていった。  このままじゃ埒があかない…。 清蓮は鍵を奪うのを諦め、先程男が庭を眺めていた窓から逃げようとした時、自分の衣装で足を滑らせ、ひっくり返りそうになる。 しまった…!と思ったその時、男が清蓮を支える。 男は清蓮を抱いたまま、なにやら意味深な顔で、 「欲しい?」と清蓮の目の前で、鍵をちらつかせる。 清蓮は男を真正面から見つめ、荒れた息の合間から、 「欲しい…。」 小さくつぶやいた…。

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