60 / 109

第二十話 幾たびも巡り合う二人 その一

清蓮は光安の部屋を出た後、倫寧に光聖のいる部屋に案内された。 公安の元に案内された時と同じく、右に左にと迷路のような廊下を歩き、ようやくある部屋の前で倫寧は立ち止まった。 「清蓮様。こちらの部屋にございます」 倫寧は部屋の扉の前で、恭しく一礼しその場を立ち去った。 一人残された清蓮は倫寧の姿を見送ると、その場でどうしたものかと考えはじめた。 清蓮は光聖に会いたくて、彼の無事を知りたくて、ただその一心であったが、いざ光聖に会えるとなると、一体どんな顔をして会えばいいのか、一体何を言えばいいのかわからず、情けないことに扉の前で立ち尽くしてしまった。 清蓮は無意識に首にかけてある水晶に手をやると、水晶は清蓮の気持ちがわかるのか、ほんのり温かくなる。 いつも水晶に触れると体が火照ってきたが、いまはとても心地よい温かさだ。 清蓮は一つ深呼吸をして、ゆっくりと扉を開けた。 部屋は簡素だが、置かれている調度品は趣味がよく、壁には掛け軸、卓の上には花が生けてある。 香炉からは燻る煙がゆらゆらと揺らいでいて、その香りは爽やかな中にもほんのりとたおやかな香りがした。 衝立が一つ、間仕切りとなっており、その隙間から寝台が見えた。 光聖は寝台にいるようだ…。 清蓮は恐る恐る声をかてた。 「光聖?そこにいるの?そこに行ってもいいかな?」 「うん…」 あぁ、光聖の声だ… 清蓮は緊張の面持ちで、寝台に近づいて行った。 光聖は寝台で半身を起こした状態で本を読んでいた。 黒い表紙に花の絵が描かれた表紙は清蓮の目に留まったが、光聖は清蓮と目が会うとその本には興味がないとばかりに本を閉じ、傍に置いた。 二人はしばし無言だ。 清蓮は光聖の変わらぬ姿を見て、嬉しくて泣きたくなった。 喉が熱くなって、言葉が出せない。 それでもなにか言わなきゃ… 「光聖…。あの…、あの…久しぶりだね…」 「うん…」 「えぇっと…、その…、元気そうで…よかった」 「うん…。君も…目が覚めたんだね…。ずっと眠ったままだと聞いていたから…」 久しぶりの感動の再会なのに、なにやら二人の会話はぎこちない。 光聖はいたって平然としていて、いつも通りと言えばいつも通りだが、清蓮の方はありきたりのことしか言えなかった。 本当はもっと別のことを言いたかったのに、なぜかできない。 会いたかったとか、感謝の言葉とか、謝罪の言葉とか、なんでもいいから言いたかったのに、なぜかできない。 あぁ、このままじゃ間がもたない… そう考えていた時、清蓮は思い出した。 「傷!光聖、傷を見せて!この前も私の傷を治した時もあっただろう?今回もあるはずだよね?」 「この間の?あの時見せたけど、傷はなかっただろう?」 光聖はしらを切る。 「いいや、あるはずだよ。この間はすぐに消えたとしても、今回の私の受けた傷は生半可なものじゃなかった。私は死ぬはずだったんだ。さすがの君だって、今回はそう簡単ではないだろう?だから寝台でこうやって休んでいるんだろう?」 清蓮は先ほどとは打って変わって、堰を切ったように喋りだした。 「君の言いたいことはわかるけど…。嫌だと言ったら?」 光聖はどこか清蓮を試すかのような口調で問いかける。 切れ長の美しい瞳には淡く揺らぐ光が見える。 清蓮ははなから光聖がはぐらかすだろうと思っていた。 だから光聖の問いかけに答えることはせず、 「見せなさいって言ったら、見せなさい!」 清蓮は言うが否や寝台にいる光聖を思いっきり押し倒す。 清蓮は光聖の上に跨って、体の傷を確認しようと衣を一気に剥ごうとする。 光聖は清蓮がこのような暴挙に出るとは思っていなかった。 まさか清蓮が馬乗りになって、衣を剥ぎ取ろうとするとは! 「やめなさい!清蓮!」 光聖は清蓮の腕を掴むが、清蓮はなんとしてでも確認したいのだろう。 恐ろしいほどの力で光聖の襟元を握りしめ、離そうとしない。 寝台の上で神の子と友安国の皇太子がちょっとした小競り合いをしていたが、ついに清蓮が力一杯に襟元を広げると、光聖の白肌の胸と頬を染めたような薄紅色の蕾が清蓮の目の前に現れた。 「ないっ!ないっ!ないっ‼︎」 清蓮は光聖の首筋や胸や腹など傷がないか、残っていないかくまなく調べる。 その間も光聖はやめなさいと清蓮を止めるが、清蓮には聞こえていないようだ。 清蓮は満足するまで調べ尽くした時、不意に後ろから声をかけられた。

ともだちにシェアしよう!