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第二十三話
清蓮は薄明かりを感じると、もう朝になったのかと思い、よく寝たなとゆっくりと目を開けた。
「はっ…!えっ…‼︎なんで…⁈」
清蓮は小さな悲鳴にも似た声を上げた。
清蓮の目の前には光聖が静かに眠っていだからだ。
清蓮は思わずくるりと身を翻し、光聖に背を向けた。
「えっ!えっ?!さっきまで私は椅子に座ってて…、光聖が眠るのを見ていたはずだ。それがなぜ彼の横で一緒になって寝てるんだ?しかも…」
こんなに身を寄せて…
抱き合ってるみたいじゃないか!
「どうしよう…。どうする…。どうすればいい…?」
清蓮はぶつぶつ独り言を言っていると、清蓮の後ろから目を覚ました光聖が声をかけてきた。
「清蓮…。目が覚めたのか?」
「うぁっ…!」
急に背後から声をかけられ、清蓮は情けない声をあげる。
清蓮は光聖に背を向けたまま、ゆっくり顔だけ振り返って光聖見て、苦笑いしながら光聖に声をかける。
「あの…、おはよう…」
「まだ夜中だよ…、清蓮」
「えっ!夜中?朝じゃないの?」
清蓮は勢いよく振り向き、少し身を起こして辺りを見渡す。
清蓮が感じた薄明かりは、太陽の日差しではなく、部屋の少し離れたところに置かれた行燈の仄暗い灯りであった。
「よく寝たと思ったから、てっきり朝だと思ったんだ…」
清蓮はまた身を横にするが、光聖と目が合うとうわずった声で弁解する。
「ごめん…。目が覚めたら隣に君がいるから、どうしてこうなったんだろうって思って…。焦ってしまって…」
「うん。でも落ち着いて、清蓮。こうなったのはちゃんと理由があるんだ…」
光聖は清蓮が寝入った後の出来事の一部始終を話した。
清蓮は光聖の話を聞いている間、赤くなったり、青くなったりしていた。
「夢を見ていたとはいえ、そんなことして…。君に嫌な思いをさせてしまって…。ごめん…、すまないことをした」
清蓮は両手を合わせて謝った。
「なにを謝る必要があるんだ?君はただ夢を見ていただけだよ。誰でも夢は見るだろう?」
「そうだけど…。君を…。その…、頬ずりしながら抱きしめたって…。そんなことはしないだろう?いきなりそんなことされたら驚くだろう?」
清蓮はしどろもどろになりながらも、光聖が不愉快な思いをしたのではないかと気づかった。
「そもそも…そんなこと…。寝ぼけてても…してはだめだよ…」
光聖は清蓮があくまで謝るのを大人しく見ていたが、光聖自身は一向に気にする様子はなかった。
「清蓮、本当に気にしていないから…。君だったら…。君なら…もっと近づいても嫌じゃない…」
「えっ…」
清蓮は光聖の言葉を聞いて、顔を真っ赤に染めた。
「光聖、なにを言って…」
急にかぁーっと全身が熱くなり、鼓動も駆け足になる。
抱きしめられるのが嫌じゃないって…
もっと近づいても嫌じゃないって…
君はなにを言ってるんだ…⁈
清蓮は光聖の言葉にひどく動揺し、おかしくなりそうだ。
清蓮は光聖の顔をまともに見ることができず、また光聖に背を向けた。
「はは…。光聖…、冗談言って私を揶揄おうとしてるだろう?」
清蓮は表面上は冷静さを装い、しかしやっとのことで光聖の言葉に答えることができた。
すると光聖はどこか艶めいた声色で、そろりと近づいて清蓮の耳元で囁く。
「冗談を言っているかどうか…試してみる?」
そう言って、清蓮に近づき後ろから自分の腕を清蓮の胸元までまわし、そっと清蓮を抱きしめた。
「あっ…!こう…⁈」
「ほんの少しの時間だけ…こうしてもいい?」
光聖は艶めいた声はそのままだったが、消え入りそうな小さな声で囁く。
その声は少し震えているようにも聞こえた。
「でも…、もし嫌だったら言って…。君が嫌だと言ったらすぐにやめるから。君を困らせるようなことは二度としないから。だから…」
光聖は自分から挑発的なことを言っておきながら、清蓮の気持ちも考えず清蓮を抱きしめたことを後悔していた。
清蓮は心臓が口から飛び出してしまいそうで、なんとか心を落ち着けようと、ふぅーっと大きなため息をついた。
あぁ、光聖…
君を拒絶できるわけない…
だって…
だって…
私も君に近づきたいから…
清蓮の大きなため息を聞いた光聖は、清蓮が呆れてため息ついだたのだと思い、清蓮から離れようとしたその瞬間、清蓮は自分の胸元に置かれた光聖の手に自分の手を上から重ね、ぎゅっと握っては自分の胸に押し当てた。
「清蓮?」
「まだ朝まで時間があるだろう?少し休まないか?」
清蓮は優しく光聖の腕をほどき、姿勢を変えて光聖と向き合う。
清蓮はほんの少し、ほんの少しだけ前に進むことにした。
「それと…。私は…、目が覚めるまでこうしていたいんだけど…。君はどうかな…?」
「…‼︎」
清蓮は光聖に近づくと、望んで光聖の胸に顔を埋めた。
光聖は震える声でうんと小さく答え、清蓮を優しく、優しく、宝物を抱くように包み込んだ。
二人は小さなため息をついた。
それは安心感から出たものだった。
二人は幸せな気持ちでいっぱいになった。
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