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第四章 第一話 天楽と栄林

天楽は寝台の上であぐらをかいて座っている。 国王夫妻をはじめ凄惨な暗殺から、二月《ふたつき》経っていた。 早春の夜はまだ肌寒かったが、国王の弟である天楽はある種の興奮に満ちており、肌寒ささえ心地よく感じた。 先程待ち望んでいた皇位継承について、重大な決断がされたばかりで、一足先に天楽は祝い酒を飲みながら、妻である栄林を待っていたのだ。 天楽に呼ばれた栄林はしずしずと部屋にやって来て、乙女のような恥じらいの笑みを見せる。 その笑みは計算されたものかもしれないが、待ちくたびれた天楽には初々しく、いじらしいものに見えた。 薄衣の透けた衣装からは、滑らかな弾力のある素肌が垣間見え、あからさまに惜しげもなく放たれる色香が、栄林の鼻にかかった甘い声と相まって、天楽の五感を心地よくくすぐる。 天楽は、自分の横に座るよう手招きしながら、 「はやく、ここにおいで。ほら、はやく!」 ここに座れと寝台をとんとんと叩きながら、栄林を呼び寄せる。 栄林ははいと俯きながら天楽の横に座ると、天楽は自分の方に栄林の肩を引き寄せ、唇を蛞蝓《なめくじ》のごとく首筋に這わせる。 気の済むまで舐めまわした後、天楽は自らの手を栄林の胸に手を伸ばし、その柔らかさと重量を確かめるようにゆっくりと揉みはじめる。 栄林は恥じらうような可愛らしい声をあげつつも、まだ早いとばかりに天楽の手をそっと胸から引き離す。 清蓮から身を守るためにできた手の平の傷は、もうすっかり良くなり、それは今の天楽にとっては勲章であり、皇位継承の正統な理由となっていた。 「ふふ。あなた…、今日はずいぶんとご機嫌がよろしいようで…。なにか良いことでもございましたのかしら?」 天楽は栄林の首筋から唇を離し、今度は栄林の耳を軽くかじりながら、 「今日決まったんだよ、私の即位が!」 天楽は抑えきれない興奮と欲望を自らの声に染み込ませた。 「まぁ…、ついに!えぇ、わかっておりましたよ。あなたしかおりませんもの、正当な後継者は!当然のことでございますわ!あぁ…あなた、陛下…なんと素晴らしいことでしょう!」 栄林は天楽以上の高揚感をもって答えた。 「陛下、お祝いいたしましょう!この国はあなたのものです‼︎」 「おまえのおかげだ。おまえが私に勇気をくれた…」 「私など…。お義兄様より…、いえ前国王よりあなたの方がこの国の王に相応しい…そう思っただけですわ。すべてあなたの実力ですわ!」 栄林は侍女に運ばせた新たな酒を杯に注ぐ。 その酒は流れた血のように赤黒く、芳醇な香りが漂っている。 天楽は一気に酒を飲み干すと、栄林を押し倒し馬乗りになる。 天楽が栄林の体を弄ろうと顔を近づけると不意に体は反転し、あっという間に栄林が天楽の上に跨っている。 妖艶な笑みを見せて、小さな杯に液体を注ぎ、天楽の目の前に差し出す。 「あなた、これを…。」 「いつものか…?」 「えぇ…。いつものにございます」 天楽は芳香な酒を見ながら、 「これは…なんと言うか…、とてもいい…」 「はい…。とても…」 「ふふ…。まるで兄が流した血のようだ…。とても…いい」 「えぇ…。美しい…ですわ」 栄林は杯を片手にゆっくりと自らの腰を動かし、天楽の中心部をそれとなく刺激した。 天楽は卑猥な笑みを滲ませ、妻の願いを叶えるべく、身を起こし自らの唇を栄林の差し出す杯に近づける。 舌舐めずりする様は、蛇が獲物を前に品定めするようにも見える。 栄林も淫靡な笑みを天楽にむけ、媚薬ともいえるその液体をゆっくりと天楽の口に含ませる。 一滴残らず飲み干した天楽は栄林をしっかりと抱き抱え、栄林の尻を揉み始める。 「栄林…、栄林、今宵は離さぬぞ。ふふ…。いいか、まずは…おまえの全身をくまなく舐め回してだな…。あぁ、特にここと…、ここは十分に舐めてやろう。その後は突いて突いて、突いて…おまえをひいひい言わせてやろう。足腰立たなくなるくらいにな…。楽しいな…、栄林。今宵は楽しいよ…。」 「まぁ、怖い…」 栄林は自分の尻を揉む天楽の動きに合わせて、また腰を揺らし、限りなく天楽を挑発する。 「でも…楽しみ…」 天楽はだらしない顔で栄林の胸も貪ろうとしたとき、意識が朦朧としてきて、目の前の栄林が二重に見えてきた。 「おっ?栄林が二人?今日はまたいつもとは違って…。うん、楽しいな…。二人の栄林?栄林が二人?ふふ…まぁなんでもいい。今宵は覚悟しておけ、栄林…天国を味あわせてやろう…」 栄林に差し出された酒を飲み干してからしばらくすると、天楽は普段とは異なる感覚に襲われたが、それもつかの間、揺りかごに揺られているような心地よさが、天楽の全身を駆け巡り、しまいにそれはこれから始まる愉悦への高揚感と恍惚感に変わっていくのを感じた。 「えぇ…あなた…。本当の宴はこれからですわ。十分にお楽しみくださいな。足腰が立たなくなるくらいに…」 そう言うと栄林は天楽からするりと体を離し寝台から降りた。 すると一糸纏わぬ若い女が、栄林の代わりに天楽に跨った。 天楽は一瞬栄林の姿を見失うが、いつものこととなんの疑いもなく、その女を栄林と思って胸と秘部を同時に弄り始める。 女が小さな声で切なく鳴き始めると、その美しい音色は甘い吐息とともに天楽の五感をくすぐった。 天楽も早く交わりたくてたまらないとばかりに、女をしごいてやまない。 その様子を寝台のそばにいたもう一人の若い女がその様子を冷ややかに見ている。 栄林もそれ以上に冷めた様子だが、いつものことと関心がない。 栄林はその女に巾着を渡すと、かなりの重さがある。 女は巾着の中を確認することもなく、 「確かに…」 女は一言発しただけだが、どうやらこのやりとりもいつものことらしく、 「今日の陛下はとても機嫌がよい…。ふふ…私もとても気分がいい。いつも以上にもてなしておやり」 女は心得たとばかりに、 「お任せくださいませ」 と、かしづく。 「ふふ…。頼んだわ」 栄林は上衣を羽織り扉に向かって歩き出すと、天楽の喘ぎ声が聞こえてきた。 「栄林…、あぁ、そう!腰を…振って…!んぁぁ…っ、栄林…!はぁ…あぁっ!栄林、んんぁっ…あっ、あぁっ‼︎あぁっ…‼︎」 女たちは天楽の一物をしゃぶったり、腰を振って刺激したりと手を尽くす。 「あぁ…陛下、陛下‼︎あぁ、あぁっ…、いぃっ…‼︎いくっ‼︎あぁっ…‼︎あぁっ…‼︎」 女たちは鼻にかかった声でわざとらしく喘いでは、代わる代わる絶妙な愛撫と艶かしい腰つきで天楽を昇天させようとする。 天楽は栄林の前では強気の発言をしていたが、薬効と女たちの妙技の前では、間の抜けた喘ぎ声で応じるのが精一杯であった。 「親が親なら、子も子ね…。汚らわしい…」 栄林はむき出しの嫌悪感を両目に揺らめかせ、憚ることなく憎悪の言葉を吐き捨て、部屋を出た。

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