69 / 110

第五話 栄林と道連

「あの三人はどうする?」 道連にそう聞かれた栄林は、格子窓を少し開けると、ゆるやかな風がそっと頬を撫でるのを感じた。 遠くには月が怪しく輝いている。 月は赤く鈍い光を放ち、栄林の心をぞわりとさせ、なぜか心がのみ込まれていくような感覚を覚えた。 三人をどうするか……。 栄林は道連に背を向けたまま呟く。 「清蓮は謀反人よ。死んでもらうしかないのよ。まぁ、うまく逃げおおせるというのなら、それでもいいわ。一人じゃなにもできないでしょうし、どこかで野垂れ死にしようと構わない」 道連は栄林が自分にではなく赤い月に話しかけているかのように見えたが、栄林は以前から誰にともなく一人呟くことがあり、道連はさほど気にはしなかった。 「いいのか?清蓮はまだ若いが賢い。臣下にも慕われている。一方の天楽はどうだ?本人はうまく隠しているつもりだろうが、権力者のもつ傲慢さが見え隠れする嫌な奴だ。お前と結婚するまで女遊びも盛んで国費を使い込んでいたという噂もある。天楽を気に入らない連中が清蓮と組んで反旗を翻すかもしれないぞ?」 「確かにあの子は賢いし、人望も厚いようね、皇太子だし。でもあの子は素直で優しい子だから陰謀や根回しみたいなことは性に合わないでしょう?万が一、宮廷に戻ってくるというのなら……きっと正攻法でくるわ、小細工なしで!謀反人として捕まるかもしれない。だけど……無謀とわかっても清蓮ならそうするでしょうね!」 「名凛は?表立っては死んだことにしているが、確か太刀渡家だろう?」 「えぇ、明凛はちょうど太刀渡家にあざの治療に行っていたのよ。太刀渡家も今回のこと、とっくに知ってるでしょうに、案の定なにも言ってこないわ」 「あぁ。政《まつりごと》には一切関与しないからな。下手に名凛を表に出せば、馬鹿な連中があることないこと勘繰るだろう。私が太刀渡家の人間なら、そんな面倒には関わりたくないからそのまま留め置くか、そっと返すか、あるいは始末するか……」 「太刀渡家がどうしようと知ったことではないわ。所詮小娘、清蓮と同じ。いえ、清蓮以上になにもできないでしょう、ただの小娘だから」 冷たく言い放つ栄林だったが、道連の見解は少し違うようだ。 「私はおまえがあの二人をとても可愛がっていたように見えたんだがな。自分の子供のように……」 「確かに可愛がっていたわ。二人とも良い子だもの……。天楽と結婚した私を悪く言う連中もいたけど、彼らは気にしなかったし、むしろ私を慕ってくれた……」 栄林の声は微かな優しさを感じさせたが、それでもすでに答えは出ているようだった。 栄林は道連に向き直り、たおやかな笑顔を道連に向ける。 栄林のその美しさを、その笑顔を見るたびに道連は苦しくも淡い思いを思い起こすのだった。 だが、いまは過去に身を委ねる時ではない。 道連は首を横に振って遠い記憶を追いやり、三人の最後の一人の名をあげた。 「友泉はどうだ?天楽が清蓮討伐の筆頭に挙げた。彼は承諾したようだが、清蓮の親友だ。清蓮の肩をもつかもしれんぞ」 栄林は高笑いしながら道連の言葉を一蹴する。 「だから!だからこそ友泉の父親も殺したんじゃない!父親を殺された怒りと苦しみ、清蓮との友情……。一体どちらが勝るのかしら?どちらを選ぶのかしら?彼は誰を、なにを信じるのかしら?」 栄林はいよいよ楽しくなって仕方がない。 「どいつもこいつもみんな苦しむがいい!苦しんで私の世界から消えてしまえばいい‼︎」

ともだちにシェアしよう!