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第九話 起点(二)
国王はなにもなかったかのように、いそいそと身支度を終えると、涙を流し横たわる栄香を視姦した。
無防備に裸のまま横たわる姿は国王の色欲を刺激するに十分だったのだ。
国王はたまらんとばかりに鼻息荒く話し始める。
「栄香。私はね、今まで多くの女を可愛がってきた。若い頃からもう何十年も……。お前の母親もそのうちの一人だよ。若い頃はなかなかのいい女で、体の相性も良かった。だが今思えば、お前ほどしっくりきた女はいなかった。いや違う。私はわかっていなかった。こうやってお前を抱いて初めて、快楽とは、絶頂とは、こういうことを言うのだとわかった。お前は他の女と比べ物にならない。お前はいいものをともっている。実に……絶品。絶品だよ……」
栄香は生気を失った目で天井を見つめる。
国王の言葉は聞こえているが、なにを言っているのか理解できない。
栄香の意識は遠いところにあった。
「お前もわかるだろう?栄香よ……。お前の中に入った途端、私は止まらないのだ。やめられないのだ!」
国王は栄香の美しい髪を撫でながら語りかける。
「お前は素晴らしい……。こんな近くに私を喜ばせてくれる女がいたとは!しかも!それが自分の可愛い娘だとは‼︎お前は私を喜ばせるためにこの世に生まれてきたんだ!天が私にお前という素晴らしい女を与えてくれたのだ‼︎」
国王は寝台に横たわったままの栄香の隣に腰かけると、なめくじが這うようにゆっくり、ゆっくりと舌を動かし栄香の涙を拭う。
「栄香よ。このことは二人だけの秘密。誰にも知られてはならぬ。わかるな?」
栄香はなにも答えない。
国王もはなから栄香の答えなど期待してはいなかった。
「そうだ、栄香。今のように黙っていればいい」
栄香は国王がなにを言っているのかわからない。
本当にわからない。
国王は気にしなかった。
ひたすら自分の話したいことだけを話し続ける。
「お前はいづれ気づくだろう。私の惜しみない愛が、お前の人生を豊かにしたのだと。お前はいづれ女王になる。いつかは生涯の伴侶を選ぶ時が来る。その時きっと私たちの、この素晴らしいまぐわいが役に立つだろう。お前は私に感謝するだろう。お前の父が全身全霊でお前に快楽の素晴らしさを教えたことを!」
国王はまだまだ話し足りないようで、栄香に近づいて囁いた。
「栄香……。お前……乳母の甥の、あの武官が好きなのだろう?」
唐突に聞かれた栄香は、初めて言葉を理解したかのように国王に目を向ける。
「……お父様?」
答えはしたものの、栄香の声は恐ろしさで声が弱々しい。
国王がこれからなにを言おうとしているのか、栄香には見当がつかなかった。
ただこの状況で武官の名が国王のこ口から出てくるなど、露ほども思わなかったのである。
「そう驚くでない。私はお前の父親なのだぞ。可愛い娘のことならなんでもわかる。見ていればわかるのだよ」
国王は震えながら静かに涙を流し続ける栄香の頬を、また舌でぺろりと舐めた。
「ならば正式に夫婦となれば良い。二人の思いあってこそ、良い夫婦になれるというものだ。夫婦とはそういうものだ。私の願いは娘の幸せだからな」
国王はさらに続ける。
「お前とあの男が抱き合うのも許してやろう。夫婦なのだから当たり前だ。だが、忘れるな。お前は私のものだ。あの武官のものではない。私がお前の支配者なのだ」
そう言うと、国王は栄香の顔、首筋、背中へと指をなぞらせていく。
そして栄香の秘部にさっと手を差し込んだ。
栄香は思わずびくんと体を縮こませ、手を払い除けようと抵抗するが、その力は弱々しく、もはや国王の脅威ですらない。
国王は気にすることなく栄香の秘部を思う存分かき回し、己の手にまとわりつく、ぬるりとした感触を楽しんだ。
国王は栄香の秘部から手を離すと、指先には、滑った液がだくだくとまとわりついていた。
満足そうに手を眺めながら反対の手で栄香の胸を弄る。
「お前は本当にいやらしいな……」
そう言うと国王は栄香から離れ、部屋の小窓を開けた。
国王が遠くを見ると、赤い月がぼんやりと輝いているのが見える。
「なぁ、栄香。見るがいい。これが私たちの交わりの証だ。美しいとは思わないか?」
国王は怪しい月明かりに手をかざし、指と指を広げると、滑った液が糸を引いては静かに切れる。
国王は指一本一本を嬉しそうに順に口に含んで、滑った交わりの証とやらを口に含んでは飲み込んだ。
「私とお前がこんなことをしているなんて、あの武官が知ったらどう思うかな?それでもお前を愛してくれるかな?お前を抱くのかな?このことは二人だけの秘密と考えていたが、ふふ……。今度武官殿に聞いてみようか?」
国王は栄香の方に向き直ると、柔和な笑顔を見せた。
いつも栄香に見せていた笑顔だったが、今の栄香には獣が笑っているようにしか見えなかった。
国王は両手で一つ手を叩くと、一段と表情が明るくなる。
なにか良い考えが浮かんだようだ。
「そうだ!この際、三人で楽しむのはどうだ?三人は楽しいぞ!あの武官がお前の胸を愛撫して、私がお前のあそこを可愛がる。それとも武官が前から突いて、私は後ろからお前を突く……。私とあの武官とでお前を攻めるのだ!これはたまらなく気持ちいいぞ!きっとお前もあの武官も気にいる!いやいや、これは楽しい!あぁ、我ながらなかなかの妙案だな!そうは思わないか、栄香?」
栄香はなにも答えなかった。
もうなにも考えられなかった。
もう……なにも感じなかった。
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