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第十一話
栄香の懐妊は乳母、侍女など、彼女を子供の頃から知る者たちに限られた。
懐妊がわかった時、すでに堕胎は困難な時期に入っていた。
栄香には子を産む以外の選択肢は残されていなかった。
栄香の担当する医官は、かつて王妃の医官を務め、栄香を取り上げたのもこの医官で、乳母の兄でもあった。
医官は乳母から事情を聞くと、妹である乳母の前で平然と国王を罵った。
「自分の娘に……、女王となるお方になんということをしたのだ!畜生め!」
医官は知っていた。
いや、宮廷の誰もが知っていた。
国王・清楽が欲してやまないもの、愛してやまないもの――それは女。
清楽は皇太子の頃から好色で有名で、王妃を迎える前から取っ替え引っ替え女遊びに勤しんでいた。
王妃を迎えた当初は、王妃との相性も良かったためか、女漁りは鳴りを潜めていた。
だが三つ子の魂百までとは言ったもので、やはり生まれもっての性癖には抗えず、次第に王妃の目を盗んでは女を啄んでいた。
国王は自ら欲するものに惜しみなく金を注ぎ込む。
国王は気に入った女とその一族に、一生困らないほどの金を与えた。
時にはその父親や兄弟を取り立ててやることも少なくなく、官位の低い者の中にはあえて娘を差し出し、引き換えに一族の繁栄と安泰を手に入れる者さえいたのである。
国王が女遊びに金を使えば使うほど、当然財政は逼迫していった。
あまりのひどさに側近たちは、国の財政について、ことあるごとに進言するようになる。
国王はその都度「わかった」と口では言うものの、金遣いの荒さはおさまることはなかった。
だが、あまりにも好き勝手すればその行いは必ず報いを受ける。
国務大臣に至っては、歯に衣着せぬ物言いで進言した。
「陛下、このままでは反乱が起き、まちがいなく国は滅びますぞ!陛下は国を破滅させた王として、その名を歴史に刻むおつもりでございますか⁈どうか自重くださいませ!今ならまだ間に合います!ですが、今を逃せばもう次はございませんぞ‼︎」
国王は女にはだらしないが、決して馬鹿ではなかった。
国務大臣が意味するところを理解しており、自らの行いへの後ろめたさもあることから、反論もままならない。
なによりも国王の妻である王妃・栄華も、長年の夫の立ち振る舞いに我慢の限界を超え、ついには国王にとどめを刺した。
「あなた、女遊びも大概になさいませ!国を滅ぼしたいのですか!いいですか!この世から国が消えてなくなる前に、あなたの方が先に消えてしまいますよ!それでもよろしいのですか‼︎ 」
妻にもとどめを刺され、いよいよ自らを悔い改めた国王は、家族と臣下の信頼を取り戻すべく、女たちとの縁をすべて絶った。
ただ夫の度重なる不貞を警戒した王妃は、念には念をと、国王に仕える者たちをことごとく男で固め、女性《にょしょう》を近づけることを禁止した。
国王のお遊びも鳴りを潜めるだろうと、みな安心した。
実際、国王もおとなしく禁欲生活、正確には王妃以外の女性を絶っていた。
しかしそれも束の間、長くは続かなかった。
所詮、国王は自らの欲望に対して、誰よりも忠実で、従順な下僕でしかなかった。
そして栄香は陵辱された。
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