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第十八話 梅勝寺

友泉と秋藤の部下数人は、それぞれ馬に乗って宮廷を出ると、とある場所に向かっていた。 友泉ら一行が目指したのは、梅勝寺《ばいしょうじ》という尼寺だ。 ここを目指したのには理由があった。 友泉と秋藤が国務大臣から話を聞いた際、この名がでてきたのだ。 国務大臣によると、そこは女たちの駆け込み寺となっており、さまざまな事情で行き場を失った女たちが、全国から集まってくるのだという。 駆け込み寺は梅勝寺以外にもあるが、ここは女たちがひっそりと身を隠して生きていく場というだけではなく、女たちが少しでも自活できるよう、個々にあった職を手に入れらるための、さまざまな機会が与える場になっているのだ。 例えば、ある者は得意の裁縫を活かし、仕立て屋で働く機会を得た。 ある者は自慢の漬物を自ら売り、町一番の漬物屋になった。 ある者は住職の推薦を経て宮廷で仕える者もいた。 梅勝寺は、身寄りのない女が最後に掴む藁としてその存在感を放っていたのである。 そこに最近になってやってきた女たちのうちの一人が、町で清蓮に似た男を見たと言っているというのだ。 果たしてその情報が確かかどうかはわからない。 ただ、清蓮は生まれてからのほとんどを宮廷内で過ごしてきた。 特に小さい頃川で溺れてからというもの、国王夫妻は皇太子に何かあってはとそれ以降外出することがなくなった。 修練場での一時期は清蓮の長年の願いが叶って、やっと実現したことなのである。 だからこそ清蓮の、皇太子の顔を知っている市井の民がいるとするならば、それは成人の儀で清蓮の華麗な舞を、勇壮な演武を見た者だと言えるだろう。 これは有力な手がかりといえるだろう。 だが、国務大臣はどうやってその情報を手にしたのか? 梅勝寺となにか繋がりがあるのだろうか? 秋藤も同じく疑問を持ったのだろう、国務大臣に情報の出所について尋ねた。 すると国務大臣はなにやら意を含んだ笑みを浮かべる。 「行けばわかるだろう」 その一言を頼りに、友泉は梅勝寺を目指すことになったのである。 「それにしたって、あのじいさん、食えないよなぁ」 友泉は嘆くと、秋藤の部下の一人がそれに応えた。 「あのお方は宮廷の生き字引といわれるお方です。清楽陛下の代から長きにわたり宮廷の切り盛りをされてきたお方ですから。きっと我々の及び知らない繋がりをもっていらっしゃるのでしょう」 「そうだろうな……」 友泉はそう言うと手綱を握り直し、一人思案に耽ることにした。 友泉にはもう一つ気になっていたことがあったからだ。 友泉の気になっていること…… それは名凛のことだ。 名凛は国王夫妻、友泉の父・剛安らとともに清蓮によって殺された。 にわかには信じがたいことだったが、確かに友泉は棺の中で冷たくなった名凛と対面した。 間違いなくそれは名凛だった。 だがあの殺戮があった日、名凛は太刀渡家にいたはずだ。 あざの治療のために…… それなのに急ぎ、宮廷に戻ったというのか? 太刀渡家から宮廷まで馬に揺られて五日かかるというのに。 友泉は馬に揺られながら、太刀渡家に行った時のことを思い返していた。 太刀渡家の当主・倫寧《りんねい》は言った。 必要とあらば一日とかからず、いや即座に宮廷に送り届けて見せると! 太刀渡家は宮廷も一目置く一族だ。 仙術にも医術にも秀でているのだ。 きっと簡単にやってのけるんだろうな…… それでも、名凛が友泉になにも言わずに帰ってきていたとは思えなかった。 なぜなら名凛はいつも治療から帰ってくると、必ず友泉に会って、あれやこれやと治療のことを面白おかしく話していたからだ。 だからこそ名凛の亡骸に対面するまで、その死を友泉は信じることができなかったのである。 友泉は思わず天を仰いて、叫んだ。 「あー!もう全然わかんねぇよ‼︎あー!くそったれ‼︎」 もともと友泉は深慮遠謀とは無縁の、単純な男だ。 自分の目で見たものを信じてきた。 これからもそうだ! 「行動あるのみ!とにかく梅勝寺に急ごう!」 友泉ら一行は一路、梅勝寺を目指した。

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