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第二十一話 懐刀
友泉は梅雪がことの顛末を語り終えると、重苦しいため息をついた。
梅雪を疑うわけではなかったが、にわかに信じられない話であったからだ。
梅雪は武装した男に斬られ、さらに襲われそうになった時、男が現れたかと思うと、瞬く間に武装した男たちを蹴散らした。
そしてその男は梅雪に近づくと梅雪の背中に手をかざし、その傷をものの一瞬で治してしまったというのだ。
梅雪はその男に見覚えがあった。
その男は成人の儀で清蓮を助けた男だったからだ。
聞いていた友泉はあまりにも突拍子もない話に、空いた口が塞がらない。
さらに始末の悪いことに、梅雪はその男は白神様だと言った。
梅雪が瞬きするたびに大きな白い鹿に見えたり、男に見えたりしたのだと言う。
そんなことあるのか⁈
白神様って……、ただの伝説だろう⁈
頭を左右に激しく振って、まとまらない思考を振い落とした。
友泉はもともと物事を深く考えることは得意ではなかったのだ。
「梅雪。正直、俺の頭の中はぐちゃぐちゃで、なにがなんだかわからない。だけどな、ただこれだけはわかる」
友泉は人好きのする、人懐っこい笑顔を梅雪に向ける。
「無事でよかった……」
「はい……、友泉様」
梅雪は清蓮の乳母ではあったが、清蓮の幼馴染である友泉も可愛がっていた。
幼くして母を亡くした友泉にとっても、梅雪は母親のような存在なのだ。
二人の心はじんわりと温かくなるのを感じた。
友泉はもう少し梅雪の話を聞いてやりたかったが、ここに来た目的を果たさねばならない。
国務大臣は言ったからだ。
行けばわかると……
ただそれが梅雪との再会だけではないと直感した。
他になにかあるはずだ……
ここで得られるなにかが……
「梅雪、教えてくれないか?国務大臣はここにくればわかると言っていた。それはなんだ?おまえと会えるってだけじゃないだろう?」
梅雪はこくりと頷いた。
「おっしゃる通りにございます、友泉様。実はこれをお見せしたかったのでございます」
梅雪は懐から小さな巾着を取り出した。
そして巾着から取り出した物を卓の上に並べ始める。
それは数個の、大きさの異なる金剛石や翡翠、黒曜石などであった。
「友泉様。これに見覚えはございませんか?」
梅雪は友泉に問うた。
友泉は卓の上に並べられた美しく耀く石をまじまじと眺めるが、皆目見当もつかない。
「梅雪、俺がこういった類のものがわかるわけないだろう?綺麗だが……うん、俺にはただの石にしか見えない!」
梅雪はそうおっしゃると思っていましたと呟いた。
友泉の答えを予想はしていたものの、それでもやはり呆れてしまう。
「友泉様、こういったものに詳しくなれとは申しませんが、少しは興味をもたれた方がよろしいかと……。今後のためにも……」
「なんだよ、今後って!それよりもこれがなんだって言うんだ⁈これが俺がここに来た理由になるのか⁈」
「さようでございます、友泉様。これらは……、これらはすべて清蓮様の懐刀の装飾として使われていたものにございます!」
「……なんだって‼︎」
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