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第二十三話 あの時の女(ニ)
女の確信に満ちた言葉を聞いた友泉は、
「そうか……。それで、清蓮は温蘭に連れて行かれたんだな?」
「はい。私を連れて行こうとした売春宿の仲介役が、清蓮様をたいそう美しい女だと言って……。その……、清蓮様は私の身代わりとなって連れて行かれたのです!」
「身代わり……。女ねぇ……」
友泉はあることを思い出して苦笑いした。
成人の儀が始まる前、友泉は着飾った清蓮を見て「傾国の美女」と言って、からかったのだ。
「わかった。ところで、このことを知っている者はいるのか、梅雪以外に?」
「いえ、誰にも……。誰にも話しておりませんし、誰もなにも聞きません……」
まぁ、それもそうだろうな……
かけ込み寺にくる女たちは皆、人知れぬ事情を持つ者ばかりだ。
聞くだけ野暮というものだ。
「私はただ、この翡翠をどうしたものかと扱いに困ったので、梅雪様にご相談したのでございます」
「そうか……。梅雪に相談したのは賢明だったな」
友泉は大きく頷き、女に礼を述べると、友泉は頭を下げて、このことは内密にしてほしいと女に頼んだ。
女は武官が自分に頭を下げてお願いをするなど夢にも思わず、戸惑いを隠せなかった。
ただ女は友泉の深刻な表情から、なにか秘密にしなければならないことが起こっているのだと直感した。
なぜなら公には清蓮は国王夫妻、名凛とともに乗った馬車が山中で滑落し、国王夫妻と名凛はそれがもとで亡くなり、清蓮は行方不明になっていたからだ。
その清蓮が温蘭近くで目撃されること自体が不自然極まりないことなのだ。
女は小さく頷く。
「承知しました。他言は致しません。この翡翠ですが、お返しできるのもなら清蓮様にお返ししたいと考えておりました。ですので、私に代わってどうか友泉様から、清蓮様にお返し下さい」
「わかった。この翡翠は預かろう」
女は友泉と梅雪に一礼すると部屋を出て行った。
部屋を出て行く女の後ろ姿を目で追いながら、友泉は心の中で女にこう問いかけた。
清蓮を恨んでいないのかと……
清蓮が成人の儀に市井の民を招くことがなければ……
親子が成人の儀に行かなければ……
幼子が舞台に上がらなければ……
夫に離縁され、子供と別れることもなかっただろうに……
友泉は頭を掻きむしりながら、苦笑いした。
だめだ、だめだ。
これこそ野暮というものだ。
聞かなくて良かったのだ。
聞いたところで、きっと女は答えに困っただろう。
友泉は視線を梅雪の方に移すと、
「確か、最初に女たち、集落の何人かがこの天然石を持っていたと言ってたな?」
「はい、さようで。その者たちから聞いた話を、本人たちに代わって私がお話しいたします。
「頼む」
梅雪は女たちや集落の者たちから聞いたことを、かいつまんで話した。
梅雪が言うには、ここに来た女たちは温蘭で遊女をしていたが、楼主に使い物にならなくないと言われ、店の男たちに馬車で剣山と呼ばれるところに連れて行かれた。
その男たちに捨てられそうになった時、清蓮が突然現れ、女たちを救ったというのだ。
そして男たちを一瞬で蹴散らした後、清蓮は別れ際になにかの足しにと懐刀の装飾品の一部を女たちに渡し、この寺に行くよう勧めたというのだ。
また、集落の者たちの話では、畑仕事から戻ってくると、炊いてあった米が盗み食いされていて、そのなくなった米の代わりに、釜戸のそばに置かれていたのが天然石だったと言うのだ。
他にも薬箱が無断で使われていたり、衣装を盗まれるなどの被害もあったが、いづれも天然石が置かれていたというのだ。
卓の上に並べられた天然石は、女たちや集落の者たちが、清蓮に助けられた女同様、やはり扱いに困って長老に預けたり、梅光寺の者に預けたということだった。
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