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第二十四話

友泉は秋藤の部下を伴って温蘭に向かった。 遊郭で働いていた女たちの話から、清蓮が連れて行かれたという売春宿を容易に見つけ出すことができた。 友泉は店の外で秋藤の部下たちに待つよう伝えると、店の中に一人入って行った。 友泉が店の男に楼主に会いたいと伝えると、若いとは言え武官が突然尋ねて来たことに驚き、急いで女に扮した清蓮が楼主と対面した部屋に案内した。 楼主の部屋に案内された際、店の男が「女たちは数人を除いて休んでるんですよ、夜に備えて、へへっ」と聞いてもいないことを友泉に伝えた。 確かに友泉が宿にたどり着いたのは昼間とあって、女たちの姿はどこにもない。 だが友泉はなんの興味も示さず、「そうか」とひと言述べるにとどまった。 楼主が友泉の待つ部屋に入ってくると、友泉は楼主に清蓮のことは告げず、人を探していると大まかなことだけを楼主に伝えた。 楼主は友泉に値踏みするかのようにじっとりとした視線を向けた後、わずかに眉間に皺を寄せると、最近ここに来た一人の女について話した。 楼主からその女の特徴を聞いた友泉は、それは紛れもなく女に扮した清蓮だと確信した。 「ここに来るのはみな訳ありの女たちばかりでこざいます。出入りも激しいですし、決して珍しいことではないのですが……。それでもその女のことはよく覚えております。いかんせん滅多にないいい女でしたので……」 友泉は楼主の言葉にはどこか淫靡な雰囲気が漂っていたが、友泉は気にするでもなく小さく頷くだけだった。 楼主はそのまま話を続けた。 「その女が店に出ると、すぐに背の高い、これまたなんとも形容し難いほど美しい旦那がその女を買ってくださったんですけど、そりゃあ、真っ青な顔をしていましたよ!そりゃそうですよね!その女のためにこの宿一番の部屋を借り切って、いいこと楽しんでいたのに!それがほんの一時外に出ると言って戻ってきたら、高値で買った女はどこにもいなくなってるんですから‼︎」 楼主は淡々と話してはいるが、言葉の端々に奇妙な興奮と、いい金づるをなくしたという口惜しさが滲んでいた。 梅雪の言っていた男に間違いなさそうだが…… 清蓮といいこと楽しんでたって、なんだよ⁈ どっちも男だろ⁈ なんだよ、それ⁇ なんなんだよ⁈ 友泉は頭を左右に大きく振って、浮かんでは消える邪推を振り払った。 友泉は気を取り直し「それで、その男はどうした?」と楼主に尋ねる。 「それがですね、店の者総動員して女を探しますので!って言おうと旦那の方を振り向いたら……、もういなかったんですよ、その旦那!一緒にいたんですよ!それが振り向いたら、もういなかったんですよ!信じられます?」 梅光時で奇妙な話を散々聞いた友泉は驚きはしなかったがが、楼主からすれば驚くのも無理はないと思った。 だが楼主の驚愕に付き合ってはいられない。 「楼主。この近くに剣山と呼ばれる場所があるそうだな。使い物にならなくなった遊女たちを捨てるという……。その場所を知りたい」 「剣山でございますか……」 言葉を濁す楼主をせっつくと、友泉がここに来る前、梅雪から聞いた話と同じことを楼主が話始めた。 女たちを捨てに行った男たちが戻ってくると、剣山で女に扮した清蓮を見たという。 男たちが女たちを捨てようとした時、突然美しい女が現れたかと思うと、あっという間に男たちをなぎ倒し、意識を取り戻した時には、女に扮した清蓮も、捨てようとした女たちもいなくなっていたと言うのだ。 友泉は顎下に片手を軽く添え、考えあぐねていると、楼主はなにやら物言いたげな様子で、揉み手をしながら控えめに友泉を見上げる視線に気づいた。 「どうした?なにか言いたいことはあるのか?」 「はい。あの、その女はなにか悪いことでもしたんですか?悪いことするようには見えませんでしたが……」 「俺は人を探していると言っただけだ。男とも女とも言ってないだろ?」 友泉の返事を聞いた楼主は余計なことを聞いてはまずいと感じたのだろう。 「えぇ、えぇ、確かに。そうでした、そうでした。私の早とちりでございましたね。お許しください、武官様」 「いや、こちらもあまり詳しいことを言えないんだ。悪く思わないでくれ」 友泉は楼主から剣山の場所を聞くと、礼を述べて部屋を出ようとした。 すると楼主は言い残したことがあるのか、友泉を呼び止める。 友泉が振り向いて楼主を見ると、なにやら楼主は卑猥な含み笑いを浮かべ、商売っ気丸出しでこう言った。 「武官様!ここに来たのもなにかのご縁!宮廷にお戻りになる前に、またこちらにお立ち寄りくださいませ!心を尽くしたおもてなしをさせていただきます!武官様もきっとご満足していただけることでございましょう‼︎」

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