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第五話

清蓮は自分を納得させるように小さく頷くと、気を取り直して光聖に「もう少し歩かない?」と声をかけた。 光聖は「うん」と言葉短に答えると、二人は揃って湖畔沿いを歩きはじめた。 その時不意に小さな涼風が吹くと、清蓮は軽く身震いした後、小さなくしゃみをした。 清蓮は気の向くまま薄衣で、しかも裸足で散歩をしていたのをすっかり忘れてしまっていたのだ。 確かにまだ万全じゃないんだな…… 光聖が助けてくれたのに、体を壊したら元も子もない…… 清蓮は心の中でそう思っていると、両肩がなにかで覆われるのを感じた。 清蓮は左肩に視線を落とすと、細やかな草花の刺繍が金糸で施された紺青の上衣がかけられているのに気づいた。 光聖が着ていた上衣を脱いで自分にかけてくれたのだ。 その上衣は清蓮をすっぽりと覆うほどに大きかったが、清蓮には光聖の心遣いが嬉しかった。 「ありがとう、光聖。でも君もまだ回復していないんじゃないの?風邪を引いたら大変だよ」 清蓮はそう言って、両肩にかけられた光聖の上衣を返そうとするが、それを光聖は押し留めた。 「私は大丈夫。風邪もひかないし、寒くもない。だけど君は薄着だから風邪をひくかもしれない。しかも……」 光聖は人差し指で清蓮の足元を指し示す。 「しかも裸足で散歩するなんて!怪我をしたらどうするんだ⁈」 そう言った光聖の声色は心なしか心配とは裏腹に、わずかに怒気を含んでいるようにも聞こえた。 「はは……、ごめん。私ね、これでも普段はちゃんと考えて行動しているんだよ。でもね、たまに、ほんとにたまになんだけど、後先考えずに行動してしまう時があるんだ。好奇心旺盛と言うか、好奇心が勝ると言うか……。さっきもね、庭を散歩していたら竹林の間から小道が見え隠れしてて、その先になにがあるんだろって……、だからつい……」 清蓮は苦笑いをしながらごまかしていたが、光聖がどことなく怒っていることに気づいていた。 清蓮には自覚があったのだ。 光聖に迷惑ばかりかけるようなことをしているからだと。 清蓮は心を尽くしてくれる光聖に申し訳ない気持ちになった。 「光聖……。あの、きっと君は私のことを面倒ばかりかけるやつだと思ってるでしょ?いい加減にしろって思っているでしょ?」 「そんなことはない。ただ君はどこか危なっかしくて、ちゃんと見ていないとどこかに行ってしまいそうだと思って……。だから、つい……」 清蓮は目を丸くして驚いた。 「ははは……。それじゃまるで私は子供みたいじゃないか!私はこれでも、ちゃんと成人の儀を済ませた大人だよ!私は君より年上なんだからね‼︎」 清蓮は今更ながらあることに気づいた。 いや、なぜ今まで不思議に思わなかったのだろう…… 清蓮は光聖の両腕を掴むと、光聖を見上げて呟いた。 「光聖……。君は……、君は一体いくつなんだ⁈」

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